かつて振り込め詐欺グループといえば、逮捕さえされなければ、かけ子であってもまとまった金が手に入り、それなりにおいしい思いをできるものだった。ところが、取り締まりが厳しくなり、拠点を海外へ移す国際化がすすんだことで、グループのメンバーは、まるで収容所で強制労働を課されるような環境に追い込まれている。ライターの森鷹久氏が、日本へ強制送還されて逮捕され「助かった」と語るほど厳しくなった、特殊詐欺グループの現実についてレポートする。
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「私は何にも知らんのです。2年前にフィリピンに留学に行くといって、今年の正月に会った時も変わった様子はなかった。今回息子が逮捕されたというて家にマスコミがたくさんきて…。逆に記者さんに“どうなっているんですか”と聞いているような状況なんですよ」
タイ・パタヤから日本向けに「振り込め詐欺」の電話を行なっていたとして逮捕された15人の日本人のうち、リーダー的な立場であったとみられる男(23)の父親が筆者の問いかけに、力無く答える。男は佐賀県武雄市出身、野球留学でお隣福岡県内の高校に進学する、父親にとっても自慢の息子だった。
高校卒業後は専門学校に進学するも中退し、福岡市内のナイトクラブでDJとして活動していたが、2年前には「フィリピンへ留学する」と話し、父親としても「あっちで勉強している」としか思っていなかった。留学にかかる費用面で家族に頼ったわけでもない。そんな中で起きた「息子の逮捕」だっただけに、まさに寝耳に水の事件であった。
「息子とは一度も話せていない。いまだに何が何だかわからない。リーダー格? まさかそんなね…」(父親)
一方、同じく逮捕された男の親族は次のように訴える。
「知人から“海外でビジネスをしないか”と誘われ、行ってしまった。特殊詐欺をやるんだと本人がわかっていたかは知りませんが、家族に“帰りたくても帰れない”と連絡をよこしてきていたようです。知人にそそのかされたとか色々勘ぐる部分もあるのですが、全てを明らかにして罪を償ってほしい。とにかく、本人が無事に帰ってきたことに、家族はホッとしています」(親族)
警視庁による15人の取り調べの詳細はいまだわかっていないが、以前、中国から日本国内向けに「特殊詐欺」の電話を行なっていたとして、現地当局に拘束された後に強制送還、日本の警察当局に逮捕されたX氏(20代)が、自身がかつて置かれていた実情について説明する。
「きっかけは知人への借金です。20万円とかそんなものでしたが、知人から“楽に稼げる仕事がある”と紹介されたのが、海外での仕事でした。なんとなく詐欺なんだろうなとはわかっていましたが、パスポートを取得した翌週には中国に飛びました。空港に着いたら、まず現地の日本人責任者と落ち合い、パスポートと携帯を預けます。そこから車で某都市のホテルに移動し、特殊詐欺電話のかけ子をすると説明を受けました。成果報酬型で、うまくいけば20万円は一週間もせずに返せると。帰国してもいいし、そのまま残って“稼ぐ”のもいい、自由に選べるとのことでした」(X氏)