サービス付き高齢者向け住宅『SOMPOケア そんぽの家S王子神谷』(東京都足立区)に若いアーティストが入居し、65人の高齢者と暮らしている。
これは東京藝術大学とSOMPOケアの産学連携プロジェクトの一環。入居するのは、東京藝大とSOMPOホールディングスによる藝大生と社会人のための履修証明プログラム「DOOR」の修了生。共生社会を支える人材育成を学んだアーティストたちだ。
介護や生活支援をするのではなく、同じサ高住の住人として食堂で一緒にご飯を食べ、語らう。そこで生まれた“なにか”を、作品やイベントの形で表現するのだ。
昨年約1年間住んだ横田紗世さん(39才)、垣内晴さん(22才)、今年春から2期目の入居者となった柳雄斗さん(27才)と上海出身の楼ショウ琳さん(26才)が、高齢者との交流を語ってくれた。
介護福祉士として勤務経験を持つ横田さんは、食堂でカフェを開設した。するとそれまで自室に閉じこもりがちだった人たちが食堂に出てくるようになり、表情も明るくなった。少なかった住人同士の会話も生まれたという。
「私自身も人生の不安をこぼしたら、“私は50才で転職したのよ”と話してくださったかたがいて。人生を生き抜いて今、楽しそうにされている姿を見て、私の視野が広がりました。介護職として高齢の人に接していた時は、こんなに踏み込めなかった。話せる大人の友人がたくさんできた感じです」(横田さん)
今も現役藝大生の垣内さんは、認知症などでコミュニケーションが取りづらい人とのかかわりが興味深かったという。
「言葉のやりとりがスムーズでなくても、私のどこかに反応している気がするのです。それをあの手この手で探るのがおもしろい」(垣内さん)
今年春に入居したばかりの楼さんもこんなエピソードを。
「いつも意味のわからない言葉を発してしまう人に、負けずに中国語で返してみたら、“え? なんですか?”ってとても普通に返してくれました。みなさん、もっとたくさん話したいのだと思う。自分のことを伝えたいと思っていると感じています」(楼さん)
舞台空間演出家として演出や、演者としても活動している柳さんは、食堂の隅にじゅうたんとテントを置いてみた。
「とても興味を示してくれて、“じゅうたんが敷かれたからお茶会でもしましょうか”と言ってくれる人も。誰かが口火を切ると、遠慮していた人たちもどんどん仲間に入って来てくれます」(柳さん)
「思い出や趣味、やりたいことなどをいろいろお話しするうちに、“この人はこんなに素敵でおもしろい!”とみんなに教えたくなる。それが数々のイベントのアイディアにもなっています」(垣内さん)
昨年度はカフェをはじめ、お茶会やコンサート、お酒を囲む夜会など、50回近いイベントを開催。今年度もまた新たな催しを企画中だ。
※女性セブン2019年7月11日号