美しい男たちによる接客とシャンパン、飛び交う札束…きらびやかなホストクラブの世界はいつの時代も世間の注目の的だ。年間売り上げ1億6千万円を叩き出すローランド(26才)のようなスターホストが脚光を浴びる一方で、今年5月、ホストクラブの女性客がホストを刃物で刺す凄惨な事件が発生した。ホストクラブで今、何が起きているのか。ホストクラブ関係者の証言などから、歌舞伎町の今に迫った──。
「ここ10年でホストクラブをとりまく世界は随分変わりました。とくに最近多いのは、若い女の子が店に通いつめた果てに何らかの理由で心を病み、新宿のビルから飛び降りるケースです」
そう語るのは、新宿区歌舞伎町で人気ホストクラブ『RUNWAY』のプロデューサーを務める十条渉(じゅうじょう・わたる)さん。
実際、2018年10月には歌舞伎町のビルから20代の女性が飛び降り自殺をしたことを皮切りに、約100m圏内で1か月もしないうちに、未遂も含めて合計7人も自殺を図ったことを複数のメディアが報じたが、その連鎖は依然として続いているという。渉さんは、背景に女の子の“病み”を肯定するホストたちの姿があると指摘する。
「”インスタ映え”全盛の中、”キラキラした私”を見せ合う世界に参加できず、”病む”方向に走り、ホストに“弱さへの共感”を求める子がいるんです。”弱くて病んでいる私”を認めて欲しいと思っている。それが自殺を図るという行動につながることもあるのでしょう。一方でそんな“病んでいる”女の子たちに過剰に共感することで指名を得ようとするホストがいるのも事実です」
◇多発する「ホスト」と「客」の“事件”
記者が取材した中には、「好きなタイプはメンヘラ・病んでる女の子です」とプロフィールに書いているホストもいた。こうした過度な“共感”が生むのは自殺者だけではない。
「好きで好きで仕方なく刺した」──5月23日、東京・新宿区のマンションで、同棲していた男性(20)の腹部を刃物で刺し重症を負わせたとして、元ガールズバー店長・高岡由佳容疑者(21)が殺人未遂容疑で逮捕された。あまりにもあけすけな供述に加え、ぐったりと横たわる被害者のそばで、両足を血に染めた高岡容疑者が平然とたばこをくゆらす、事件直後のショッキングな写真がSNSで拡散されたことで大きな話題を呼んだこの二人の関係もまた、「ホスト」と「客」だった。
歌舞伎町の現役ホストたちは、事件をどう見たのか。
「男性が被害者であるのはもちろんですが」と前置きをしながらも「刺されるようではホストとしては一流とはいえない」と語るのは、歌舞伎町『GRAN』代表・楓流依(かえで・るい)さん。流依さんは、1か月で321本の指名を獲得したという”伝説のホスト”だ。流依さんが続ける。
「女の子の求める共感や承認欲求を受け入れ、肯定することで、ホストがお客さんを得ることは簡単です。でもそれだけでは、単なる『共依存』の関係。ホストとしては不完全です」
前出の渉さんも「ダークサイドに落ちてしまいそうな子はきちんと引き上げてあげるのがホストの仕事」と、声を揃える。
しかし、似たような客とホスト間のトラブルは多発しているのが現状だという。別の店のスタッフが明かす。
「近いことはざらにあるのですが、明るみに出ず、事件化することはほとんどありません。この前もある人気ホストが、お客さんと揉めた末に今回のように包丁で刺され、相当な大怪我をしたのですが、被害届は出さなかった。理由を聞いたら『女の子が罪悪感で、もっと太い客になって戻ってくるから』というんです…」
◇女性の弱みにつけこむ“心が弱いホスト”が増えた