国内

JRに君臨した革マル派最高幹部の「亡霊」

国鉄再建最終答申に対し抗議声明を発表した際の松崎明・動労委員長(当時=右。時事通信フォト)

国鉄再建最終答申に対し抗議声明を発表した際の松崎明・動労委員長(当時=右。時事通信フォト)

 昨年、JR東日本の最大労働組合である「JR東労組」から、3万4500人の組合員が大量脱退するという事件が起こった。巨大企業の中で、いったい何が起こっているのか──。月刊誌『ZAITEN』7月号に掲載されたジャーナリスト・牧久氏の記事を抜粋して紹介する。

 * * *
 私は4月に『暴君 新左翼・松崎明に支配されたJR秘史』を上梓しました。2年前の『昭和解体 国鉄分割・民営化30年目の真実』(講談社、2017年)の続編です。1987年に国鉄が分割・民営化されて誕生したJR東日本の労使関係を軸に「平成JRの裏面史」を描いています。

 分割・民営化をきっかけに、経営当局と対峙してきた旧国鉄最大の労組、国労(国鉄労働組合)が分裂・崩壊した一方、動労(国鉄動力車労働組合)は生き延びることになります。かつて動労はストも辞さない過激な闘争手法で「鬼の動労」と呼ばれ、国労と同じく経営側と対立してきましたが、民営化直前になって方針転換し、経営側と密接な関係を築きます。

 その方針転換を主導したのは、かつて数々のストを指揮し「鬼の動労」の象徴的存在だった松崎明でした。その鮮やかな“変心”は「松崎のコペルニクス的転換(コペ転)」とも言われました。その結果、国労を崩壊に追い込み、彼は「国鉄改革」の最大の功績者の一人になります。

 分割・民営化を行ったのは「戦後政治の総決算」を掲げた中曽根政権です。首相の中曽根康弘は民営化に際して国労や動労が生き残れば大騒動が起きると思っていたはずです。また、「国鉄改革3人組」(松田昌士、井手正敬、葛西敬之)にとっても組合問題は最重要の課題でしたが、最大労組の国労を潰すには、一時的にせよ、動労を取り込むしかないと判断したのです。一方の松崎にしても、時の政権の大方針と闘うことがどういう結果を招くかを読み切った。だから、動労が生き残るために「コペ転」をしたのだと思います。

 松崎は民営化後、JR東労組(東日本旅客鉄道労働組合)の初代委員長に就任しますが、上部団体のJR総連(全日本鉄道労働組合総連合会)にも強い影響力を持ち、事実上、上部団体を下部組織が支配するという歪な関係が長く続きます。組合だけでなく、会社側にも人事など経営権に深く介入する「影の社長」のような影響力を及ぼしました。

 しかし一方で、松崎には「もう一つの顔」があった。過激派同士の“内ゲバ”で数々の殺人・傷害事件を起こしてきた新左翼組織「革マル派」の副議長という最高幹部でもあったのです。革マル派の組織論には、敵組織に“潜り込み”、敵組織を内側から“食い破る”という戦術があり、松崎は「コペ転」によって、この革マル派の戦術通りにJR東日本に潜り込んだとも言えます。松崎自身はある時期から表向き「革マルを離脱した」と公言していますが、警察当局や多くの関係者は「離脱は偽装」と見ていました。

関連キーワード

関連記事

トピックス

女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(左/時事通信フォト)
広末涼子の父親「話すことはありません…」 ふるさと・高知の地元住民からも落胆の声「朝ドラ『あんぱん』に水を差された」
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、入学式で隣にいた新入生は筑附の同級生 少なくとも2人のクラスメートが筑波大学に進学、信頼できるご学友とともに充実した大学生活へ
女性セブン
漫画家・柳井嵩の母親・登美子役を演じる松嶋菜々子/(C)NHK 連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合) 毎週月~土曜 午前8時~8時15分ほかにて放送中
松嶋菜々子、朝ドラ『あんぱん』の母親役に高いモチベーション 脚本は出世作『やまとなでしこ』の中園ミホ氏“闇を感じさせる役”は真骨頂
週刊ポスト
都内にある広末涼子容疑者の自宅に、静岡県警の家宅捜査が入った
《ガサ入れでミカン箱大の押収品》広末涼子の同乗マネが重傷で捜索令状は「危険運転致傷」容疑…「懲役12年以下」の重い罰則も 広末は事故前に“多くの処方薬を服用”と発信
NEWSポストセブン
『Mr.サンデー』(フジテレビ系)で発言した内容が炎上している元フジテレビアナウンサーでジャーナリストの長野智子氏(事務所HPより)
《「嫌だったら行かない」で炎上》元フジテレビ長野智子氏、一部からは擁護の声も バラエティアナとして活躍後は報道キャスターに転身「女・久米宏」「現場主義で熱心な取材ぶり」との評価
NEWSポストセブン
人気のお花見スポット・代々木公園で花見客を困らせる出来事が…(左/時事通信フォト)
《代々木公園花見“トイレ男女比問題”》「男性だけずるい」「40分近くも待たされました…」と女性客から怒りの声 運営事務所は「男性は立小便をされてしまう等の課題」
NEWSポストセブン
元SMAPの中居正広氏(52)に続いて、「とんねるず」石橋貴明(63)もテレビから消えてしまうのか──
《石橋貴明に“下半身露出”報道》中居正広トラブルに顔を隠して「いやあ…ダメダメ…」フジ第三者委が「重大な類似事案」と位置付けた理由
NEWSポストセブン
小笠原諸島の硫黄島をご訪問された天皇皇后両陛下(2025年4月。写真/JMPA)
《31年前との“リンク”》皇后雅子さまが硫黄島をご訪問 お召しの「ネイビー×白」のバイカラーセットアップは美智子さまとよく似た装い 
NEWSポストセブン
異例のツーショット写真が話題の大谷翔平(写真/Getty Images)
大谷翔平、“異例のツーショット写真”が話題 投稿したのは山火事で自宅が全焼したサッカー界注目の14才少女、女性アスリートとして真美子夫人と重なる姿
女性セブン
フジテレビの第三者委員会からヒアリングの打診があった石橋貴明
《中居氏とも密接関係》「“下半身露出”は石橋貴明」報道でフジ以外にも広がる波紋 正月のテレ朝『スポーツ王』放送は早くもピンチか
NEWSポストセブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された
〈不倫騒動後の復帰主演映画の撮影中だった〉広末涼子が事故直前に撮影現場で浴びせていた「罵声」 関係者が証言
NEWSポストセブン
現役時代とは大違いの状況に(左から元鶴竜、元白鵬/時事通信フォト)
元鶴竜、“先達の親方衆の扱いが丁寧”と協会内の評価が急上昇、一方の元白鵬は部屋閉鎖…モンゴル出身横綱、引退後の逆転劇
週刊ポスト