《在宅療養患者では、平均処方薬剤種類数は6.5種類であり、60%が6種類以上であった》──厚生労働省は6月中旬、そんな衝撃的な実態をまとめた報告書を発表。「多剤服用」に警鐘を鳴らすとともに、「高齢者の服用には注意が必要な薬剤」のリストもバージョンアップされた。
薬局から持ち帰る薬袋がどんどん大きくなっていくと嘆くのは、埼玉県に住む65才の主婦、村山さん。
「いつの間にか、1日に10種類以上の薬をのむことになっていて…。最初は市の健診でひっかかった高血圧とコレステロールの薬だったのですが、そこから骨粗しょう症の薬、さらに、薬の副作用を抑える胃腸薬に加え、夜眠れなくなった時は睡眠導入剤ものむ。正直、どれがなんの薬なのか混乱するうえ、かぜをひいたりすると、さらにその薬が加わる。もはや効いているのかすら、よくわかりません」
今、村山さんのような人は決して珍しくない。多くの薬をのみ合わせた結果、害が発生する「多剤服用」が社会問題になり、国を挙げての対策が始まっている。
2018年5月、厚労省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」というガイドラインをまとめた。医療機関に向けて、不要な薬の処方を減らす必要性や、その具体的なプロセスを説いたもので、安易な薬剤の使用に警鐘を鳴らしている。
特に、注目されたのは《高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点》という添付資料だ。高齢者によく処方される薬剤について、実際に起こりがちなリスクや、併用によって起きる事例をまとめるなど、かなり力が入ったものになっている。
同指針をまとめたワーキンググループ構成員である、たかせクリニック理事長で医師の高瀬義昌さんはこう話す。
「指針は、高齢者に広く使われている薬についての注意すべき点を指摘し、見解をまとめたものです。過去には老年医学会をはじめとする各学会が高齢者に対する薬剤の使用についてガイドラインを示すなどの動きはありましたが、今回は厚労省が主導して作ったものであり、画期的といえるでしょう」
総論編の公表から1年を経た今年6月14日、続編である「各論編(療養環境別)」(以下、新ガイドライン)が公表された。総論編の倍近い紙幅を割いたこの新ガイドラインは、「外来患者」や「入院患者」、「医師が常勤する介護施設の入所者」など、高齢者の療養環境ごとに薬剤治療を見直す手段を、より具体的に記載したものとなっている。
新ガイドラインには、高齢者によく使われる薬の注意点が追加で記載されており、厚労省が指摘する「高齢者が注意すべき薬剤」も増えたことになる。