日本では、どんなひなびた宿であっても、歯ブラシが備え付けられていると驚かれる。世界的に見ても、そんな国はなかなかない。
だが一方で、日本人の口臭はまさに“鼻つまみ者”だという調査データが報告されている。在日外国人のうち、約7割が日本人の口臭にガッカリした経験があるというのだ。(*1)
(*1)オーラルプロテクト・コンソーシアムが2015年に実施した調査。約7割が日本人の口臭にガッカリした経験があり、口臭を感じるシチュエーションの1位は「公共交通機関(電車・バス・タクシーなど)」と回答。
その背景には、日本の治療制度にあると、歯周病専門医の若林健史さんは言う。
「日本の場合、国民皆保険の制度により、虫歯になっても最低限の治療費で治せます。一方のアメリカでは、治療費が高額なため、予防治療への意識が高い。“フロスorダイ”、つまり“フロスをするか死ぬか”というキャッチコピーが浸透しており、デンタルフロス使用率は8割にも達します」(若林さん・以下同)
5月に発表された最新の『口臭白書2019』(*2)では、いくらまめに歯磨きをしても、日本人の口臭が解消しない実態が明らかになった。
(*2)全国47都道府県4700人を対象とした口臭ケアに関する意識調査と、口臭測定器を用いて首都圏214人を対象とした口臭レベルの実態も調査。歯周病専門医の若林健史さんと歯科医療総合商社のモリタ、生体ガス測定システムのパイオニア企業のタイヨウからなるプロジェクトチームによる。
たとえば、歯磨き頻度が1日2回以下の人で、口臭測定値が「周囲の人が気になる口臭レベル」を示す50以上の人の割合が12%なのに対し、3回以上の人は14.2%となり、歯磨きが3回以上の人は、2回以下の人に比べて口臭が強いというデータが。つまり、歯磨きをこまめにする人の方が、しない人に比べて、口臭が強いというのだ。
口臭は、いわゆる喫煙や食べたものが原因となることもあるが、それ以外では、病的口臭と生理的口臭の2種類の原因があると若林さんは言う。
「病的口臭の多くは、歯石が引き起こす歯周病など、口腔内のトラブルが原因です。舌につく汚れ(舌苔)のほか、歯石になる前の歯垢そのものも悪臭を発しますが、歯周病の膿から発生した揮発性の硫黄化合物・メチルメルカプタンは、舌苔(ぜったい)が発する硫化水素より6倍臭いことがわかっています」
ひとたび歯石ができると、歯磨きでは落とすことができず、歯科医院で除去してもらうほかない。つまり、病的口臭は歯磨きなどでは解決することができないのだ。