多くの薬をのみ合わせた結果、害が発生する「多剤服用」が社会問題になり、国を挙げての対策が始まっている。特に高齢者はさまざまな症状に対して都度薬が処方され、「多剤服用」に陥りがちだ。
2018年5月、厚労省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」というガイドラインをまとめた。医療機関に向けて、不要な薬の処方を減らす必要性や、その具体的なプロセスを説いたもので、安易な薬剤の使用に警鐘を鳴らしている。
さらに、総論編の公表から1年を経た今年6月14日、続編である「各論編(療養環境別)」(以下、新ガイドライン)が公表された。
総論編の倍近い紙幅を割いたこの新ガイドラインは、「外来患者」や「入院患者」、「医師が常勤する介護施設の入所者」など、高齢者の療養環境ごとに薬剤治療を見直す手段を、より具体的に記載したものとなっている。
新ガイドラインには、高齢者によく使われる薬の注意点が追加で記載されており、厚労省が指摘する「高齢者が注意すべき薬剤」も増えたことになる。高齢者の薬剤服用に関して共通する注意点として、薬局・池袋セルフメディケーション代表で薬剤師の長澤育弘さんはこんなことを挙げる。
「そもそも、薬と食品の決定的な違いは『少量で人体に多大な影響を及ぼすもの』です。つまり、どの薬も“毒”になりうるし、副作用がない薬も存在しない。1種類でさえそうなのに、ミックスして服用したら、かなりの確率で副作用が起きることは避けられません。その大前提はぜひ頭の片隅に置いてほしい」(長澤さん、以下「」内同)
そして、高齢者だからこそ気をつけたい点をこう続ける。
「高齢者は、自分の体の特性を理解しておくべき。すなわち、加齢によって薬が効きやすくなるのです。そして、ほとんどの薬は、標準的な成人を基準として作られており、高齢者には分量が多すぎることがままあるのです」
どういうことか。順を追って話を聞こう。
「薬は主に肝臓か腎臓で代謝されるのですが、それらの機能が加齢により低下すると、体内にたまってしまい、効き目が大きく出やすくなる。たとえば腎臓の場合、『クレアチニンクリアランス』という腎機能の性能を表す値があります。この値は健康な人でも80代になると20代の時と比べて3割くらい低下してしまう。高血圧や糖尿病など持病を持っている人だと、さらに半分くらいになる人もいる」
薬が効きやすくなる原因は内臓の機能低下だけではない。