【著者に訊け】綿矢りさ氏/『生のみ生のままで』(上・下)/各1300円+税/集英社
都内の携帯電話ショップで働く〈逢衣(あい)〉と、芸能活動をしている〈彩夏(さいか)〉。25歳の夏、2人は各々の恋人と訪れた秋田県のリゾートホテルで出会い、高校時代の憧れの先輩〈丸山颯〉とつきあっていた逢衣は、今まで想像すらしなかった感情に目覚めてゆく。〈退屈などしていなかった〉のに──。
綿矢りさ著『生のみ生のままで』は、そんな2人の恋の始まりと破綻、そして7年の空白を経て再会してからの関係を、著者初の上下巻で描いた意欲作。尤も綿矢氏は性の多様性やLGBTといった社会的言説とは一線を画し、あくまで個と個、一対一の、無垢で本質的な関係性を見つめようとする。恋愛に男と女も、女と女もないとばかりに。
「確かに最近は同性同士の恋愛が、小説、映画や漫画で描かれることも多いとは思います。ただ芸術表現としての同性愛自体は谷崎潤一郎や三島由紀夫以前から脈々と描かれてきたし、私の興味はそうした文学や芸術の系譜にありました。
例えば私は『ひらいて』(2012年)で高校生の女・男・女の関係を描いた時から、この女同士の部分をもっと書いてみたいと思っていました。今回でいえば逢衣と彩夏の、既存の言葉におさまらない関係にこそ魅力を感じました。
友達に見えて友達じゃないとか、恋人とも違うとか。美しく、高身長の彼女たちが一緒にいると目立つことは目立つけれど、きっと仲がいいんだな、くらいにしか周囲は思わない。その2人だけの間に流れる濃密な時間や、人生を凝縮したような一瞬の輝きを、私は文字だけで表現することに憧れてきました」