《ある時「もう仕事やめようと思う、普通の人は何しているのかしら」と弱々しい声で聞いてきた。(中略)ただただ黙って聞いてあげるしかなかった。その2~3日後「私やっぱり人間の観察が好きだとわかった。それって女優として一番大切なことよね」と結論を出してきた。あなたはつぶやきながら自分を見つめて道を開く》
6月28日に刊行された雑誌『PARTNERS ♯2』に、樹木希林さん(享年75)と40年以上の親交があった椎根典子さん(75才)と、夫で雑誌編集者の椎根和(やまと)さん(77才)が樹木さんとの思い出を綴ったエッセイを寄稿している。
彼女が“女優業からの引退”を考えていたことなど、意外な一面も書かれている。
典子さんは郷ひろみ(63才)が主演したTBS系のドラマ『ムー』(1977年)、『ムー一族』(1978年)に、樹木さんと一緒に愚痴を言い合う3人組の家政婦の1人「ブスの竹ちゃん」として出演。実生活でも樹木さんに最期まで「ブスの竹ちゃん」と呼ばれてきた間柄だ。
和さんは雑誌『Olive』など数々の創刊に携わり、樹木さんの夫・内田裕也さん(享年79)とは『平凡パンチ』編集者だった45年前からのつきあいだという。
◆本当にうれしかった希林さんの言葉
都心から電車で1時間ほど離れた緑深い山間に建つ椎根さん夫妻の家を訪れると、庭には樹木さんの大のお気に入りだったという、さくらんぼ「佐藤錦」の木が見事な枝ぶりで出迎えてくれた。しかし典子さんは、少し困った表情を浮かべ、こう言う。
「あのエッセイは(樹木さんの長女の)也哉子さん(43才)に頼まれて書いたもので、希林さんへの最後のラブレター。だから、それ以上のことは話す気はないの…」
それでも和さんと一緒に思い出をぽつりぽつりとこぼすうちに、典子さんはこらえきれないといった様子で、樹木さんのことを語り始めた。
「『ムー』で出会った時は、ともに30代。私は“素人”でしたけど、たまたまデザイナーの横尾忠則さんと知り合いだったという縁で、久世光彦さんのドラマに出るようになったんです。それが始まりね」(典子さん)
樹木さんの第一印象は《周りを緊張させる怖い人》。その怖さの源は、相手のすべてを見透かすような《眼力》だったという。