【著者に訊け】内澤旬子さん/『ストーカーとの七〇〇日戦争』/文藝春秋/1620円
【本の内容】
〈事件は、ごく普通の、ありふれた話から始まる。交際していた男と別れようとした。それだけだ。ただちょっとだけ、先を急いでしまった。私は嫌だとなったら急に手のひらを返したようになってしまい、話をするのも厭わしくなる性分なので。まさかそれが大惨事を招くことになるとは、当時は思いもしなかった〉。冒頭に内澤さんも書くように、交際相手のAは別れ話をきっかけにどんどんエキセントリックになっていく。2度にわたる逮捕、そして裁判に至るまで、実体験を克明に綴ったノンフィクション。
週刊文春連載時から大反響を呼んだ、戦慄のノンフィクションである。
交際していた男性が、別れ話をきっかけに逆上、ストーカー化する。「めちゃくちゃにしてやる」。ひっきりなしに携帯にメッセージが届き、地元の警察に相談したところ、彼が偽名を使っていたことや逮捕歴があることも明らかになる。ここまでが連載の第1回だ。
東京から小豆島に移住し、愛するヤギたちと暮らしていたが、ヤギを人に預け、内澤さん自身も島の中でひっそり引っ越し、息をひそめた暮らしを余儀なくされる。
「私は身の回りのことをエッセイに書いているので、最初は、移住した島の中で引っ越さなきゃいけなくなった事情を読者に何とか説明しなきゃ、という気持ちでした。それが、警察や弁護士の対応で『こんな目に遭うの?』って思いをして、制度の不備みたいなものもどんどんわかってくると、これはきちんと書かなきゃいけない、一人でも多くの人に知ってもらいたいという気持ちになりました」
ストーカーという言葉は広く知られるようになったが、被害者の視点で書かれた情報は乏しい。法律も現実をカバーしきれていない。
「ストーカー規制法ができたのは2000年ですが、私が被害に遭った当時、法の対象となるのはメールで、SNSのメッセージは対象外で(改正され現在は対象に)、警察に接見禁止命令を出してもらえなかった。過渡期なんです」
脅迫や、ネットに名誉毀損の書き込みを続けた元交際相手は、2度逮捕され、刑務所に服役したが、「自分はストーカーではない」と主張する。ストーカーを、自分では止められない依存症ととらえ、加害者の治療に焦点を当てているのもこの本の特徴である。
「カウンセラーの小早川明子先生に出会って専門家のアドバイスをもらえたのは本当にありがたかったです。刑罰を受ける以上に、加害者が治療を受け、自分への執着をなくすことは重要で、被害者の安全につながるはずです。イギリスでは、マルチエージェンシー制度といって、組織の壁を越え連携して対策を取ることが義務化されていますが、日本にも、そうした体制が必要だと思います」
◆取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2019年7月25日号