《アルツハイマー型認知症や糖尿病などを患い、不眠症にも悩まされていた85才の女性が活動的になり、食欲も湧くようになった》
《要介護4でうつ状態にも悩まされていた85才の男性。病院に入院せず、要介護3に。うつ状態も落ち着き、活発になった》
目を見張るような病状の回復例は2019年6月中旬、厚生労働省が公表したガイドライン「高齢者の医薬品適正使用の指針」に掲載されたものだ。医療機関などに向け、高齢者への不要な薬の処方を減らす必要性や、その具体的なプロセスを説くガイドラインは、“とりあえず”薬剤を使用する日本の現代医療への問題提起として、医療界で大きな波紋を広げている。
報告書をまとめたワーキンググループの1人で、たかせクリニック理事長・医師の高瀬義昌さんはこう話す。
「日本は国民皆保険制度のうえ、どこの病院でも自由に診察が受けられる“フリーアクセス”が許されています。複数の医療機関や診療科を受診することにより、『多剤服用』による弊害が起きやすくなっている。つまり、ガイドラインで取り上げたような深刻な多剤服用の事例は決して珍しくないのです。程度の差はあるでしょうが、全国どこの医療機関でも多剤服用による有害事例が発生しているはずだと考えています」
ガイドラインで取り上げられた特徴的な事例のなかには、7種類の薬を、毎日3回も服用して、食欲低下や低血糖状態、便秘を引き起こしていた例もあった。高齢者の多剤服用の実態は、それほど深刻なのだ。
東京・国立市で高齢者を中心とした在宅訪問診療に取り組む、新田クリニック院長の新田國夫さんも「特に高齢者は薬による弊害が起きやすい」と指摘する。
「薬は、肝臓や腎臓で代謝されるため、服用すると多かれ少なかれ臓器に負担がかかります。年を重ねれば肝臓や腎臓の機能が低下するので、代謝や排泄までの時間がかかるようになり、肝障害などのリスクも上昇する。もちろん必要な薬はしっかり服用してほしいですが、漫然と不要な薬をのんでいないかを見直して、『減薬』できるものがないか検討してほしい」
薬ののみすぎは体に負担をかけるだけではない。2012年に東京大学病院老年病科が行った調査によれば、処方される薬が6剤以上に増えると、10~15%も副作用が増える比率が高まることが明らかになった。
※女性セブン2019年7月25日号