父の急死で認知症の母(84才)を支える立場となった『女性セブン』のN記者(55才・女性)が、介護の現実を綴る。
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昨夏は記録破りの猛暑だった。母に「エアコンつけて」とうるさく言うと、つまらなそうにガラス戸の外を見ながら「昔はよかった」と、大きなため息をついた。夏の夕暮れには、家族や夫婦の思い出のシーンがたくさんあるのだ。
◆“高齢者には命取り”を実感した昨夏の酷暑
「高齢者は暑さやのどの渇きに鈍感なので、熱中症対策は周囲の人が気をつけましょう」と、昨年の夏は何度耳にしたことだろう。熱中症による救急搬送者数や死者数も記録的で、危機感が募った。
母もご多分に漏れず、暑さに気づかずエアコンを使わない。サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)の母の部屋は、南向きのガラス戸から日差しが注ぎ放題。エアコンをつけないとサウナのようだが、母は平然として、さほど汗もかかない。私は部屋に入るとすぐさま汗が噴き出し、80代と50代の体の違いも思い知った。
そしてさらに口うるさく、エアコン使用を促すようになった。熱中症警報が出れば即、電話。「今、エアコンついてる? すぐつけて」と、質問から入るのがコツだ。
ヘルパーさんにもチェックをお願いし、訪ねて行った時には「死んでる人もいるんだよ」と、脅しを繰り返した。
それが功を奏したのか、ある夕暮れ時に訪ねるとエアコンがついて快適な室温だった。ところが母はそそくさとガラス戸を開けようとする。
「エアコンをつけているんだから、開けちゃだめ!」と、つい命令口調になる私。外はまだ30℃超えだったのだ。
母は大きなため息をついた。
「昔はよかった。夕暮れの風が気持ちよくて好きだった」
叱られた子供のような表情でガラス戸の外を見ながら、母がつぶやく。熱中症にさせまいと、躍起になっていた私は、思わずはっとして黙った。
◆昔の夏の心地よい風が母の大切な思い出
確かに昔の夏はもっとさわやかだった。エアコンを使うのはたまのこと。日中は汗をかきかき、夕方になるとスーッと涼しい風が吹いた。
私が子供の頃、当時住んでいた団地のベランダにテーブルを出して、よく鉄板焼きをやった。最上階の5階で見晴らしがよく、向かいの団地の小さな窓々に明かりが灯って団らんの声が聞こえ、毎年恒例の花火大会の特等席でもあった。肉が焼けるいいにおいと蚊取り線香の煙が風に乗り、それだけでワクワクしたものだ。花火が上がると父や母も子供のようにはしゃいでいたのを覚えている。