2019年6月中旬、厚生労働省がガイドライン「高齢者の医薬品適正使用の指針」を公表した。医療機関などに向け、高齢者への不要な薬の処方を減らす必要性や、その具体的なプロセスを説くガイドラインは、“とりあえず”薬剤を使用する日本の現代医療への問題提起として、医療界で大きな波紋を広げている。
日本においては、複数の医療機関や診療科を受診することで、『多剤服用』による弊害が起きやすくなっているという現状がある。むだな薬はできるだけのまないようにしたほうがいいわけであり、薬を減らす努力が必要なのだ。
一口に薬といっても、比較的減らしやすいものと、減薬が難しいものがあるという。多摩ファミリークリニック院長で家庭医療専門医の大橋博樹さんが解説する。
「数値で状態が把握できる病気は、変化がわかりやすいため、患者さんとの密な話し合いのもと、薬を減らしやすいといえます。たとえば、血圧測定ができる高血圧や、血糖値が指標となる糖尿病などの生活習慣病です。『ここまで血糖値が下がったから、この薬を減らしてみましょうか』という話は比較的しやすい」
◆高血圧薬
「血圧を下げる薬」といっても、血管を拡張させる、血液量を減らす、など効果のメカニズムはさまざまだ。実際の治療では、1つの薬で降圧効果が得られなくなると、別の作用の薬を次々に追加していくケースが多い。
「薬の数が多ければ、それだけのみ忘れやのみ間違いが起こりやすくなります。ところが、担当医は患者さんがきちんと薬をのんでいるという前提のもと診療にあたるため、数値が悪くなれば『もっと薬を増やさないと』と判断し、薬が増えがちです。そのような場合は、複数の薬の成分が1剤にまとまった『配合剤』を導入すれば、のむ薬の数を減らせて、のみ忘れやのみ間違いも少なくなる」(大橋さん)
池袋セルフメディケーション代表で薬剤師の長澤育弘さんも、「配合剤」を推奨する。
「よく患者さんから『配合剤は大きさも2倍、3倍になってのみづらいのでは』と質問されますが、心配要りません。むしろ、もとの1錠分より小さいものもあります。そのうえ、ジェネリックの配合剤を駆使すれば、医療費の削減にもつながります」
加えて、運動を取り入れたり、食事の改善を実行したりするだけでも、病状はずいぶん改善する。東京・国立市で高齢者を中心とした在宅訪問診療に取り組む、新田クリニック院長の新田國夫さんはこう話す。
「毎日散歩する人としない人を比べると、前者の血圧が圧倒的に低いというデータが存在します。また、食塩の摂取を1日6g以下にすれば、ほとんどの人が血圧を平常値にまで落とせるともいいます。
バランスのいいものを適量食べるなど食事の内容に気を使い、少し汗をかく程度の軽いものでいいので30分程度の運動を取り入れることで、薬を減らすことができるようになるケースは少なくありません」
※女性セブン2019年7月25日号