クセになる人が続出、ということなのかもしれない。スーパーの棚の専有面積も着実に増えている。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が「山椒ブーム」について解説する。
* * *
明治時代の牛肉しかり、平成のパクチーしかり。個性のある味の定着には時間がかかる。なじみのある食材や調味料でも、シーンが変われば「新しい味」としてすそ野が広がる。
そんな「新しい味」として強力に存在感を増しているのが「山椒」だ。英語だと“Japanese Pepper”と言われるが、日本では実を使ったスパイスとしてだけでなく、葉もハーブとして使う一人二役タイプのスパイス&ハーブ。実はちりめん山椒などに、葉を乾燥させた粉末状の薬味はうなぎには欠かせないし、生の葉は若竹煮のあしらいにも欠かせない。
和山椒は数年前まで、上記のような“脇”としての使われ方が多かったが、近年になって気鋭の飲食店が続々と花山椒や実山椒を使った鍋を提供するようになって一気に火がついた。
日本の山椒だけではない。英語で“Sichuan Pepper”──直訳すると「四川胡椒」となる「花椒」もまた「麻(マー)」と言われるしびれる味わいが存在感を増している。
とりわけ唐辛子の「辣(ラー)」味と組み合わせた「麻辣」味が日本にも定着。この数年で、大衆中華店の麻婆豆腐でも仕上げの花椒が振られるようになり、コンビニの麻婆豆腐にも複数種類の花椒が使われるように。日常にも「麻」味はすっかり定着した。
そして今年、その勢いはさまざまな食品・飲料に及んでいる。特に土用の丑を控えたこの季節、近年のうなぎ不足もあってか、スナックやインスタント食品に“うなぎ味”が続々と登場している。
まずは身近なポテトチップス。ハウス食品は「オー・ザック」にうなぎの蒲焼味を投入し、山椒の香りをアクセントに加えた。「裏メニュー」としてごはんにかける「うな丼風」やそこにだし汁をかける「うな茶づけスタイル」などの食べ方も提案している。かたや惣菜では、日本ハムが「うなぎみたいな鶏の蒲焼 うなチキ」という成形加工した鶏肉のローストを蒲焼き風のたれと山椒で食べさせるアイテムを発売した。
蒸留酒にもその余波は及んでいる。京都蒸留所の「季の美」のように山椒の香りをボタニカル(ジンのフレーバーの元になるスパイス&ハーブ)として使ったクラフトジンも一大ブームに。「晴耕雨讀」の佐多宗二商店は芋焼酎に和歌山産の山椒を漬け込み、蒸留にかけたクラフトスピリッツ「AKAYANE」も気鋭の焼鳥店が続々採用。「焼鳥とぴたりと合う」と好評を博している。