猛暑だった昨年、熱中症で救急搬送された「9万5073人」は2008年の調査開始以降で最多、そのうち48.1%が65才以上の高齢者だ。
老親を見守る立場としては、もはや夏は厳戒態勢の季節だ。帝京大学医学部教授、同大附属病院高度救命救急センター長の三宅康史さんに、中年の子供世代が知っておくべき夏の高齢者の体の状態と熱中症対策を聞いた。
外気温が上がり、体温調節が追いつかずに体温が異状に上がると、めまいやけいれん、失神などを起こす熱中症。脳や肝臓、腎臓、血液循環などにダメージがあれば、命にもかかわる重大な病気だ。
「人の体は一定の体温を保つことで、脳や臓器などの働きを守っています。通常は、体温が上がると皮膚表面の血流量が増えて熱を外気に放熱したり、汗をかいて乾く時に熱を奪ったりして体温を下げようとします。暑いと不快に感じ、思わずあおいだり、冷水に触れたり、無意識にも放熱を促します。これは体温が異状に上がることへの回避行動ともいえます」(三宅さん・以下同)
ただこれは比較的健康な一般成人の場合。高齢者は暑さの感覚や体の反応が鈍くなり、基礎代謝も落ちているため、同じ環境下でも、暑さを感じない、汗をかかないということもよくあるという。
「それでも、暑い場所にいて体温が上がっていないわけではないのです。高齢者は成人に比べて体内の水分量が少なく、例えれば、同じ大きさのやかんの中の水の量が少なく、加熱すればすぐに沸騰するわけです。つまり高齢者の方が、暑さなど環境の影響を受けやすいということです」
暑さを感じにくく、自らエアコンをつけるなどの回避行動につながらない。それどころか独居の場合、夏でも冬の服や布団を使っていたりすることも少なくないという。
「本人も気づかないうちに熱中症を発症し、結果的に重症に至ることも多いのです。特に油断しがちな家の中が危険。窓を開けて風を入れれば大丈夫と思っている高齢者も多いのですが、今は昼も夜も暑い。事実、高齢者の熱中症の多くが家の中で発症しています。“暑ければエアコンをつけるだろう”という、家族の思い込みも禁物です」
◆涼しい室内の目安は感覚ではなく数値で確認
高齢者がいちばん長く過ごす家の中。熱中症にならないための対策を聞いた。