今では家族の一員として迎えられている猫だが、もともとは野生の動物。どのように人間と出会い、一緒に暮らすようになったのか。また、日本にはいつ頃からいるのか──今回は、猫と人間の歴史をひもとく。
「猫と人間との出会いは、今から約1万年前。現在のイラク周辺にあたるメソポタミアと考えられています」
こう教えてくれたのは、西南学院大学人間科学部教授で動物学者の山根明弘さんだ。
この地では、数々の文化が生まれているが、農耕もその1つ。土地を耕し、麦などの穀物を栽培するようになる中で、当時の人々は、収穫した麦などを食い荒らすネズミの被害に悩まされていた。
そんな悩みから人々を救ってくれたのが、現在の“飼い猫”や野良猫などの祖先となる野生のリビアヤマネコだ。現代の猫と比べ足が長く、体も少し大きい。牛、豚などほかの家畜と違い、猫は自ら人間社会に近づき家畜化されたのだ。
「リビアヤマネコの主食はネズミ。夜行性のリビアヤマネコは、恐らく夜中にこっそり貯蔵庫に忍び込んで、ネズミを捕食していたと思われます」(山根さん・以下同)
人間に危害を加えることもなく、厄介なネズミを退治してくれる救世主のようなリビアヤマネコ。その存在に気づいた人間の中に、親を失った子猫を拾って育てる者などが現れ、徐々に人間と猫が共生するようになっていったと考えられている。では、日本にはいつ頃からいるのか。
つい10年ほど前までは、奈良時代から平安時代の初期に、仏教の経典(紙)をネズミから守るため、中国から連れて来られたといわれていた。ところが最近の研究で、そんな通説を塗り替える証拠が次々と発見されている。
「2007年に兵庫県姫路市の見野古墳群から、“猫っぽい動物”の足跡がついた須恵器(日本で古墳時代中期から平安時代にかけて作られた土器)が発見されました。その年代を推定したところ、およそ1400年前、古墳時代後期から飛鳥時代のものということがわかりました」
さらに翌年、長崎県壱岐島のカラカミ遺跡から、ヘビやイノシシ、魚などの骨に交じって、十数点の猫のものらしき骨が見つかった。年代を推定した結果、これらの骨は今から約2100年前の弥生時代のものであると判明。この発見により、日本への猫伝来の時期は、約700年も遡ることになった。
「中国に猫が伝わったといわれているのが、今から約2000年前。つまり、中国に猫が伝わったのとほぼ同時期か、またはそれよりも早く、日本に猫が伝わったことになります。今までは、メソポタミアからエジプトへ、そこからヨーロッパ、さらに中国に伝わり、日本に来たという説が有力でしたが、ひょっとしたらインドや東南アジア経由など別のルートがあったのかもしれません」
今後、最新のDNA解析などを駆使すれば、正確な年代や新事実が発見できそうだ。
※女性セブン2019年7月25日号