今、医学界で話題となっているのが、厚生労働省が2019年6月中旬に公表したガイドライン「高齢者の医薬品適正使用の指針」だ。このガイドラインは“とりあえず”薬剤を使用しがちな日本の現代医療への問題提起ともいえる。
同ガイドラインは、医療機関などに向け、高齢者への不要な薬の処方を減らす必要性や、その具体的なプロセスを説いている。薬をたくさんのむことそのものが健康を遠ざけ、要介護の状態を生む可能性すらある。新田クリニック院長の新田國夫さんはこう語る。
「多剤服用のいちばんの問題は『フレイル』という、健常から要介護へ移行する中間の段階に陥ることです。体が弱くなっている状態で、要介護の手前ともいわれています。多剤服用していると食欲が減退してフレイルになりやすい」
薬をのまないことによるメリットは計り知れないが、それ以上に恐ろしいのは自己判断による減薬だ。
「糖尿病の治療で通院していた患者さんが急に来なくなったことがありました。その人はその後、勝手な減薬をした結果、容体が悪化し、救急車で病院に運ばれてきた。自分の判断で薬を減らしたり、のまなくなることは絶対にやめてください」(新田さん)
ただ、医師によってはどうしても薬を出したがったり忙しさゆえに親身に減薬に対応してくれない場合もある。多摩ファミリークリニック院長で家庭医療専門医の大橋博樹さんはこうアドバイスする。
「かかりつけの医師に一度相談するのがいいが、もしうまくいかなければ、病気を心身から全体的に判断し、総合的な治療を行ってくれる『総合診療医』を掲げる医師にかかるのも1つの手です。複数の処方薬を一括して管理してもらえるでしょう」
一方で、減薬しない方がいいケースもある。
「たとえば、病状がよくなったからと抗てんかん薬を減らしたところ、半年くらいで再発作が起きた例がありました。このように、減らさない方がよい場合もある。今の状態が健康で体に負担がないのなら、そのままでいい」(新田さん)
池袋セルフメディケーション代表で薬剤師の長澤育弘さんは1つの目安は「5剤以上」だと言う。
「今のんでいる薬が4剤以内におさまっているなら、無理して減らす必要はないうえ、薬によっては症状がなくなっても中止してはいけないものもある。たとえば、抗生物質は表面的な症状がおさまったあとも、出された分をのみ続けないと菌が再増殖することもある。減薬するにしても、医師や薬剤師などプロに相談してからにしてください」(長澤さん)
健康になるための薬によって、害が発生しているばかりか、本人がそれに気づいていない…それは皮肉としかいいようがない。
厚労省お墨付きのガイドラインを「薬の見直し」の好機としたい。
※女性セブン2019年7月25日号