作者・ねこまきさんの代表作といえば『ねことじいちゃん』。動物写真家の巨匠・岩合光昭さんが初監督を務めた実写映画も大きな話題になった。そのねこまきさんが今回『トラとミケ いとしい日々』で挑んだのは、「猫だらけ」の漫画。擬人化された猫たちが日々を一生懸命に生きる姿をあたたかく描いた会心作だ。日々、猫を撮り続ける人気の猫写真家の沖昌之さんは『トラとミケ』をどう読んだのか。沖さんが綴ったスペシャル書評をお届けします。
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写真の世界では、「うわーっ」と思わず感嘆のため息がもれるような美しい情景の写真が好まれますが、ありきたりな日常の中の一枚の写真でも、見た瞬間から心の中で思い出や物語が始まる写真も好まれます。
僕の猫写真もどちらかというと後者な感じで、写真展に来場されたお客さまから、「うちの家のコも、この格好よくする!」というお声をいただきます。僕の猫の写真を見ているけど、そのかたの心の中では 自分の飼われているコのことがよぎり、最後に思うことは 「うちのコ一番かわいい」だと思っています。そんな感じの仕掛けがこの作品にもちりばめられています。
昭和の世界を歩いてきたかたがたなら、この漫画を読んでいたらいつの間にか自分の思い出の世界で足を止め、懐かしむ時間があるでしょう。そう感じながら、自分も思い出に浸っていました。
僕が立ち止まってしまったシーンは、第9話「歳末の候」の、トラとミケのお母さんがおせち料理をこしらえるところです。
うちの母もおせち料理を作る人で、年末はおせちの下ごしらえで一日中台所にいました。トラとミケのお母さんのように、傷まないものから先に作っていましたし、黒豆も毎年炊いていました。そして、僕もトラとミケのように「錆びた釘を拾ってきてほしい」と言われたことを思い出しました。
当時は小学生で幼かったので「錆びた釘」の意味は分かりませんでした。でも、親に頼られていることが嬉しくってせっせと釘を拾ってきたんです。この本を読むまでは記憶のどこかに行っていたのに、読んだ時にふわっと記憶が蘇ってきたんです。そういえば、栗きんとんを、すりこぎで平らにつぶすのは僕の仕事でしたね。