空前の妖怪ブームが巻き起こっている。書籍、映画、グッズ、ゲームと身の回りを妖怪たちが徘徊し、平成最後の「講書始の儀」では妖怪文化がテーマの一つに選ばれ、天皇・皇后両陛下(現上皇・上皇后両陛下)が熱心に説明を聴かれたことも記憶に新しい。
4月26日には、広島県三次(みよし)市に「湯本豪一記念日本妖怪博物館」がオープン。話題を集めている世界初の妖怪博物館を、“美人すぎる妖怪研究家”として知られる木下昌美さんが訪れた。
「わあっ!『稲生物怪録』の絵巻がずらっと揃っていて、びっくりしました。この博物館が建つ三次市三次町は、江戸時代の妖怪物語『稲生物怪録』の舞台となった地なんです。実際にこの地に来て見られるのは感慨深く、素晴らしいですね」
常設展示室に並ぶ絵巻に見入る木下さん。『稲生物怪録』は寛延2(1749)年7月(旧暦)、16歳の稲生平太郎(後の広島藩士)の元に30日間にわたって様々な妖怪が現われ怪異で脅し続けるが、それに耐え抜いたという物語だ。伏見由希学芸員が解説する。
「『稲生物怪録』は江戸時代以降、絵巻や絵本、小説、講談、戯曲、漫画、オペラなど多様な形態で現代まで日本各地に伝えられてきた“隠れた大ベストセラー”。いま展示している絵巻の中でも『柏本』系の江戸時代の絵巻は現存数が少なく、非常に貴重な資料です。
柏本系とは、稲生武太夫(成人後の平太郎)の同僚・柏正甫が本人から聞いた話を記録した『柏本』の内容が描かれた作品です」