“闇営業”を行い契約解消となった芸人の宮迫博之(49)らが一転、吉本興業からパワハラを受けたと訴えた問題は、「お笑い帝国」の屋台骨を揺るがす事態にまで発展している。5時間半に及んだ同社の岡本昭彦社長(52)の会見から見えてきたのは、時代にそぐわない家父長主義の企業体質そのものだ。組織論に詳しい同志社大学政策学部教授の太田肇氏が厳しく指摘する。
* * *
吉本興業に所属する芸人と反社会的勢力とのつながりに端を発したスキャンダルは、マスコミや世間の関心が吉本興業の芸人に対するパワハラ問題へ移っていくという思わぬ展開をみせている。
「身内の意識で家の中で怒っている感覚しかなかったが、相手にそう感じさせなかった…」
吉本興業の岡本社長が7月22日の会見で語ったこの一言が問題の本質を象徴的に表している。一般企業や教育現場、スポーツの競技団体などでパワハラが告発されたときに、責任者がたびたび口にする「信頼関係があると思っていた」という言い訳とそっくりではないか。
そう、社長が芸人たちを「あの子」と呼び、自分たちは「ファミリー」だと公言する吉本興業こそ、わが国の伝統的な家父長主義の権化なのだ。そして、そこにパワハラを生む構造的な体質がある。
家父長主義の怖いところは、実際にパワハラが行われていても悪いことだという自覚がないことだ。それどころか、むしろ教育や指導の延長として善意で行っている場合が少なくない。そのため客観的に見たら到底許されないような言動が平気で飛び出す。
吉本興業の社長は、芸人に対して「会見したら全員クビや」と言ったのは「父親が息子にもう勘当やみたいな話」で場を和ますためであり、「テープ録ってんちゃうの」との発言は冗談だったと釈明した。しかし、恫喝やパワハラまがいの言動が日常的に行われていたことは、ほぼ間違いないようだ。
また驚くべきことに、会社と芸人との間に正式な契約は交わされていなかったらしい。にもかかわらず問題を起こした芸人に契約解消を言い渡し、風向きが悪くなったらそれを撤回するという行き当たりばったりの対応も「身内」に対する甘えからきているといえよう。さらにいうなら、芸人を「謹慎」させるのも考えてみれば家父長主義そのものである。