いよいよ夏ドラマが船出している。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が注目する作品について言及した。
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今期ドラマで「一推しの傑作」と言えそうなのが、黒木華主演のドラマ『凪のお暇』(TBS系金曜夜10時)。物語は…空気を読みすぎて生きづらい28歳OLの大島凪(黒木華)が主人公。彼氏の慎二(高橋一生)と結婚するつもりだったのに、凪のいない場所で「体の相性がいいだけ」などと言い放つ慎二。それを聞いてしまった凪は過呼吸で倒れ会社を辞め人生をリセット。貧乏アパート暮らしを始め隣人たちの風変わりなキャラクターに衝撃を受けて……。
このドラマが今期「一推しの傑作」と言える理由は、9つあります。
1.女性視聴者の共感呼びまくり
冒頭に描かれたOLの凪の仕事風景に「まるで自分を見ているみたい」と共感者が続出。「凪は身を削って空気を読んでる。観てて辛くなる」「思い当たる所が多過ぎる」という視聴者が目白押し。多くの人々の「あるある」を刺激。
ただでさえ同調圧力が強いこの社会、特に女性の集団の場合、みんなと同じにしないと仲間はずれにされたり意地悪されたり。21世紀になっても変わらない陰湿なこの風土を、ドラマ第一話で逃げることなくきっちりと正面からリアルに描いて高い好感度を獲得。
2.男性視聴者の共感ポイントも
女性だけでなく、男性視聴者も惹き付けられるこのドラマ。凪の元彼・慎二のモラハラぶりが、男性にとっては「あるある」ポイントの一つとか。
普段仕事で激しくしのぎを削っているサラリーマンが、プライベートにおいては優越感を与えてくれるか弱い彼女を欲しがるというありがちなパターン。常に自分がリードしたい、相手を支配したい、というモラハラ男ぶりを慎二が見事に体現。
3.ドンピシャのキャスティング
何と言っても黒木華が光る。おどおどした従順なOLが、ヒッピー風爆弾娘へ。サラサラストレートヘアから天パーへと、性格だけでなく風貌も含め幅のある2タイプにするりと成りかわり、不自然さを感じさせない。役者としての力量を見せつけた。
元彼・慎二役に高橋一生、新たに出会った天然系男に中村倫也と、違うタイプをくっきりと対比させた配役も鮮やか。アパート住人の不思議な老女・吉永緑を演じる三田佳子の存在感もいい。鋼のような強さが垣間見える老女像は斬新。
4.演出の工夫が効いている
思い切った演出が印象を刻む。例えば、凪が水の中に沈んでいく映像のフラッシュバック。当初ストーリーと直接つながらないアート的な挿入で、何を意味するのかよくわからなかった。しかしそれが過呼吸のシーンとつながり「空気を吸う」ということと関係している、とわかると、たちまち別の世界が見えてくる面白さ。そうした演出による妙味にも期待大。