全国で“防犯カメラの家”が増えている。この場合、玄関に防犯カメラがついている、という程度ではなく、家をぐるりと囲むように何台ものカメラが設置されている家のことだ。そのカメラで撮影した動画や画像をSNSにアップする住人も少なくない。そのSNSを見て、ネットの“ネタ”として消費するためにイタズラをしにやってくる人たちがいる。各地にある“防犯カメラの家”をめぐるトラブルについて、ライターの森鷹久氏がレポートする。
* * *
名古屋市北区の路上で、男性二人が近くに住む男に刺殺された事件──
「ゴミ出し」や「駐車」を巡るトラブルがあった、などとされているが、一部メディアは「加害者宅に設置してあった“防犯カメラ”に向かって酒に酔った被害者が叫んでいた」とも報じている。一体何が起きたのか。
「発端は加害者が、とある時期から急に家のあちこちに防犯カメラを取りつけ始めたことでした。普通の住宅街ですし、近隣住人の間では“異様だね”と話題になっていました。こういうことにならなければいいね、って話したこともあったくらいで」(近隣住人)
犯行の動機はまだはっきりしないが、近隣では、そういえばこんな話をしていたと、防犯カメラをめぐって色々なことが起きたことが思い出されたようだ。
実は、近隣から過剰に見える防犯カメラをそろえた家をめぐる事案は、日本各地で起きている。中国地方在住の吉井郁人さん(仮名・50代)が訴える。
「私の実家の近隣住人に、父親が先に死に、母親も亡くなって一人暮らしの男性がいます。以前はたまに挨拶をしたりしていたんですが、すっかり見かけなくなったなと思っていると、家の四方に防犯カメラをつけるようになり、夜はサーチライトのような眩しい光を、近所中の家に当てるようになりました。夜にその家の前を歩こうとしたら、オイッとかコラッと怒鳴られる。そのうち、自宅前の公道に勝手に柵を置いたりしてね。警察や行政にも相談したんですが、道路占有の件以外については、どうすることもできないと。眩しいのならカーテンを厚いものに変えるとか、カメラは気味が悪いかもしれないが、防犯目的と言われれば外すよう指導できないそうです」(吉井さん)
結局この住宅は近所中で有名になり、住人男性を面白がる若者たちが、敷地内にゴミを投げ入れるなど嫌がらせを始めた。暴走族が夜中にやってきて、空吹かしをすることもあり、近隣住人にとっては迷惑この上ない。
「そうした嫌がらせがエスカレートすると、あの男性の不満は近隣住人に向けられるようになりました。男性の自宅内のゴミが、私の実家の敷地に投げ入れられたり、通学途中の子供をビデオカメラで無断撮影したり…。親御さんが苦情を言いにいっても、男性は無視を決め込む。実家に住む両親を呼び寄せ、自宅を売ることも考えましたが……不愉快なだけでなく、金銭的な負担までのし掛かってきそうで、もう我慢の限界です」(吉井さん)