言論は多様であってしかるべきだが、誰の目に見ても明らかに重要な外交上の節目において、ここまで国民感情を逆撫でしかねない主張が並ぶのも珍しいのではないか。作家でジャーナリストの門田隆将氏が指摘する。
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「どうして日本の新聞が韓国の味方をするのでしょうか」
講演の際、そんな質問を受けることが最近多くなった。日本に在住している韓国の知識人と先日話す機会があったが、その人もこう言っていた。
「日本の新聞はすごいですね。まだ韓国の保守系新聞の方がましです。日本の輸出規制についての批判はしますが、そのあとに必ず文在寅政権批判も展開しているからです。朝鮮日報や中央日報がそうです。先日、文大統領は両紙の日本語版の内容にまで“売国奴的だ”と攻撃してきました。でも朝日や毎日など日本の新聞は、まるで日本が悪いみたいに書いています。驚きです」
私はこの韓国問題をきっかけに、新聞への国民の関心が高まっていることを感じている。別に新聞の読者が増えているということではない。新聞の中身を検証したり、ウォッチする人が「増えている」という意味である。
拙著『新聞という病』が発売2か月で8万部となった。反響の大きさに正直、驚いている。お蔭で新聞のウォッチャーとして、毎朝、私自身も新聞を開くのが楽しみになった。
7月26日付の朝刊紙面には、日本の新聞が持つ病巣が象徴的に表われていた。拙著で特に多くのページ(25ページから54ページ)を割いて指摘した韓国問題に対する新聞の“欺瞞(ぎまん)”である。
例えば、〈日韓の対立 舌戦より理性の外交を〉と題した朝日新聞の社説を見てみよう。〈他国が集(つど)う会合で、韓国と日本が言い争った。両国に死活的に重要な自由貿易を守るための枠組みでの一幕である。国際社会にどう映ったことか〉と始まるこの社説は、厳しい「日本批判」で貫かれている。
朝日によれば、半導体材料の措置に加えて、韓国を「ホワイト国」から外す手続きを進めていることは〈韓国だけでなく日本経済の足も引っ張りかねないうえ、日韓関係を正す確たる展開もない〉という。
その前提に立って、朝日は堂々と〈日本政府は貿易をめぐる一連の措置を取り下げるべきだ〉と主張する。断わっておくが、これは韓国ではなく日本の新聞の社説である。優遇措置対象国から韓国を除外するという方針について経産省がパブリックコメント(意見公募)を求めると、たちまち万単位の意見が国民から寄せられ、「9割以上」が賛成という結果になったのに、朝日はそれを「取り下げよ」と言ってのけるのだ。「韓国の国益」と見事に一致する。社説はこう続く。
〈日韓はいまや、互いを非難しあう連鎖に陥った。なかでも、外交の責任者自らが事態をこじらせるのは実に嘆かわしい〉として、河野太郎外相がメディアの前で駐日韓国大使に対して「きわめて無礼だ」と叱責したことを〈冷静な対話を困難にし、問題の解決を遠ざける〉と糾弾。
くり返すが、これは韓国の新聞ではない。一応、社説はその後、文在寅大統領が徴用工問題について仲裁委員会の設置に応じなかったことを〈具体的な対応を定めないのは責任放棄である〉と申し訳程度に言及し、最後はこう締め括(くく)られる。〈反感をあおる舌戦や強面(こわもて)の演出ではなく、理性の外交が求められている〉と。