長野県の小さな町に生まれ育った新海誠監督(46才)。その両脇の町には電波天文台がある。星がきれいに見える場所だったという。季節によって見え方が変わる空を眺めて幼少期を過ごした監督が、最新作のテーマに選んだ「天気」。
彼は天気の何を切り取り、どのように描いたのか。雲研究者・荒木健太郎さん(34才)による気象監修のもと完成した映画『天気の子』に込めた思い、人間と天気の関係を2人が語り合った。
今の地球を生きるものにとって現在の気候変動は死活問題だが、もっと長い期間で考えてみると、天気についての考え方が変わる。たとえば作中では、ある登場人物が「異常気象と、とらえるのはあくまで人間の都合上のもので、天気には正常も異常もない」と発言する。どの立場から見るかによって姿を変える“天気”について、私たちはどう考えればよいのだろう。
新海:実際に今の気象庁が記録しているような天気の観測データは、どれくらい前から存在するのですか?
荒木:古い資料を当たって災害の規模などを調べることはできますが、観測データとして残っているのは、ここ150年くらい。作中の、「異常気象はあくまで人間にとって異常というだけ」というメッセージには「それだよ、それ」とすごく感銘を受けました。
新海:1000年や2000年のスパンで見たら、人間には関係ないところで、今よりもっと極端でものすごい雨や、想像もできないような日照りや地震が何回もあったんでしょうね。氷河期や太陽の黒点活動など、地球規模で、地質学的なスケールでの気候変動もあると思います。
荒木:ええ、そうですね。
新海:ただ一方で、今の気候変動がぼくらの活動とまったく無関係ともいえないと思うんです。ぼくたちが何かを変えてしまっている、責任みたいなものも、もっと感じるべきではないでしょうか。
荒木:人間と異常気象のかかわりについて、「無関係」と「関係」の2つの見方をしているわけですね。
新海:ええ。ぼく自身にはどちらが正しいとも判断がつきません。責任や覚悟が必要なのは間違いないですが、エンターテインメントの世界は、最大多数の幸福を是とする政治家やマスメディアが言えないことを大きな声で叫べるんです。この物語のクライマックスには、そうした叫びが登場する瞬間があります。
帆高(ほだか)と陽菜(ひな)が走り抜けた先について賛否はあるかもしれませんが、劇場で主人公の叫びに耳を傾けて何かを感じてもらえれば、ぼくとしてはこれ以上の幸せはありません。