【書評】『ゴリラの森、言葉の海』/山極寿一、小川洋子・著/新潮社/1500円+税
【評者】嵐山光三郎(作家)
霊長類学者山極寿一と小説家小川洋子によるエキサイティングな対談集。第一部は山極氏が二十六年ぶりに再会したマウンテンゴリラ(オスのタイタス君)の話。タイタス君とは、標高三〇〇〇メートルをこえる熱帯雨林のなかで一緒に雨宿りをした仲だった。現地で内戦があって会えなかったが、二十六年後にNHK取材班と会いに行くと、タイタス君が山極氏を覚えていた、という熱烈感涙友情(写真入り)。
第二部は、京都大学山極研究室での対談で、子を殺された母親ゴリラが、殺したオスゴリラと交尾して、また子どもを産む話が出てくる。メスは殺された子どもを守れなかったオスを必ず振って出ていく。山極氏はゴリラ社会の視線で人間社会を見るため、人間が非常に特殊な世界に住んでいることがわかる。敗者として進化した人類とはなにか。
第三部はゴリラの同性愛。ゴリラの睾丸はピンポン玉くらいしかなく、ペニスは身体のなかに隠れていて、性器が見えない。山極氏は、大股を広げたゴリラに近づいて九十八例を観察した。ゴリラは成長しても同年代による性的な遊びがつづく。ゴリラにはオス同士の優劣関係が少なく、対等な関係なので性的交渉につながりやすい。
第三部の対談は「食欲とはなにか」「悪意の検証」「リーダーの条件」「心は身体の外にある」「愛という不思議な心」「殺しの闇」と話は四方八方へ飛び、ページをめくるたびに目玉がパチパチとはぜる。