「私としては風穴の存在が架空になり過ぎても、根のない植物を育てるような不安感があって、歴史を遡ってこれはと思う人物を探したんです。そして鷹揚でいろんな人を匿ったとされる八条院との接点を各章の冒頭で語らせてみたのですが、結局は自分でもうまく説明できないくらい、風変わりな未来小説になっちゃって(笑い)。
でも本書で起きることは、五輪後の経済を誰もが心配し、外国人が日本を褒める番組が妙に多かったりする現実の延長というか。もし観光立国に本当に特化したら国はここまでやるかもなあとか、労働力不足は多少AIで補うとしても、彼らにできない仕事は誰がやるんだろうとか、気になる報道や事象の一歩先を、想像してみただけなんです」
街の景観が外国人観光客〈外ツー〉の期待に適うか、常に目を光らせる〈観光省〉や〈景勝部員〉。外来の音楽やスポーツやダンスを禁じ、〈相撲大会〉に重きを置く学校など、本書が描く未来は昭和の子供が思い描いたような未来色をしておらず、何もかもが和風で嘘くさい、〈なんちゃって京都〉風だ。
尤も科学は格段に進歩し、小学5年生の早久にとってAI家庭教師〈ニノキン〉は、何でも相談できる相棒だ。彼は幼い頃、アイルランド人とのミックスだった父を他国のテロで亡くし、以来ジャーナリストの母と現在中2の里宇との3人暮らし。
一方、外ツーの観光ガイドでボランティア実習の単位をギリギリ取得し、留守がちな母に庭の管理まで任される里宇は、その言動をGPS搭載の追跡端末〈MW〉に管理されていた。そして父親譲りの髪色を咎める景勝部員を〈地毛です〉と振り切った帰り道、彼女は(株)カザアナの営業を名乗る香瑠に声をかけられる。そして近々特Bエリアに格上げされる入谷家の作庭を任せてほしいと言われる。
母に判断を丸投げされた里宇に香瑠は〈行灯と竹垣の設置〉〈日本在来種植物の優先的栽培〉など、特Bの条件を説明し、早速仲間2人と作業に入った。天気を読む〈テルさん〉と虫が操れる〈鈴虫さん〉だ。そんな彼らと触れ合ううち、里宇たちは社会にはびこる様々な理不尽に気付かされ、たとえ微力でも自分なりに闘う大事さを学ぶのだ。