【著者に訊け】森絵都氏/『カザアナ』/1700円+税/朝日新聞出版
〈ええ、ええ、風穴のことでしたら、しかとおぼえております〉〈かつて京の都でもてはやされた異能の徒。その怪しき力ゆえに囲われ、使われ、うとまれ、あげくに葬られたあの者たちのいたわしき定を、なにゆえわすれることができましょう〉
はて。何の話かと思いきや、森絵都著『カザアナ』は、行き過ぎた管理社会や自国愛が人々を逆に追いつめる日本の20年後を描いた、「ちょっぴり近未来のエンタメ小説」なのだった。
平安末期、八条院暲子(しょうし)の庇護を受け、平清盛に滅ぼされたという一族の末路と、観光立国に生き残りを託す五輪後の日本で〈景勝特区〉に住む入谷家を繋ぐのは、庭や外観に〈ジャポい〉造作を義務付けられた特区の住民に大好評の造園会社、(株)カザアナの〈岩瀬香瑠〉ら、3人の存在だ。
それぞれ〈石読(いしよみ)〉、〈空読(そらよみ)〉、〈虫読(むしよみ)〉の末裔として万象を読み、〈人にあらぬものと念をかよわせる〉彼らは、入谷家のシングルマザー〈由阿〉や〈里宇〉〈早久〉姉弟の窮地をも救い、日本の閉塞感に文字通り、風穴を開ける?
一家が住む東京都久留瀬市藤寺町や風穴の存在自体、むろん想像の産物。一昨年の本屋大賞第2位に輝き、永作博美主演でドラマ化もされた前作『みかづき』が学習塾経営者夫婦を描いた小説だっただけに、作品の飛び幅にまず舌を巻く。