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「下級国民」へと落ちこぼれた氷河期世代を救済することはできるか

「就職氷河期世代」を待ち受ける「残酷すぎる現実」とは

 2019年6月に神奈川県川崎市で起きた小学生児童ら20人を切りつけた事件に、翌7月には東京都練馬区の住宅街で元農林水産事務次官が長男を刺殺した事件が続き、「大人のひきこもり」が大きくクローズアップされた。40~50代のひきこもりの多くは、バブル崩壊後の1990年代半ばから続いた「就職氷河期」で新卒採用が抑制され、その後もなかなか定職に就けず、長い間、世間から排除されてきたことが背景にあるといわれる。

 さまざまな要因が複雑に絡み、長きにわたって排除されてきたことで「下級国民」とのレッテルが貼られがちな彼ら/彼女らに救いの道はないのか。

 作家の橘玲氏は、新刊『上級国民/下級国民』(小学館新書)で「平成の日本の労働市場では、若者(とりわけ男性)の雇用を破壊することで中高年(団塊の世代)の雇用が守られた」と論じ、ひきこもりについて多角的な検証を加えている。

「若いことが大きな価値をもつ女性と違って、男性がモテようとすれば、社会的・経済的な成功が求められます。男の性愛では『(権力やお金を)持てること』と『モテること』が一体化していて、社会的・経済的に成功できなければ『非モテ』として、社会からも性愛からも排除されてしまいます。これがネットスラングでいう『モテ/非モテ』ですが、男は年収が低いほど未婚率が高いことはデータからも明らかで、就職氷河期で正社員になれず、多くが非正規雇用に追い込まれた40代の男性を苦境に陥れています」(橘氏・以下同)

 橘氏によれば、その先には「残酷すぎる現実」が待ち構えているという。

「エリートやセレブは『努力して実現する目標』であり、近代以降、階級(クラス)は移動できるものになりましたが、『上級国民/下級国民』は、個人の努力がなんの役にも立たない冷酷な自然法則のようなものとしてとらえられています。

 40歳過ぎまで『仕事がない、お金がない、女の子からも相手にされない』といった『非モテ』の人生を送ってきたら、そこから挽回するのはほぼ不可能です。いったん『下級国民』に落ちてしまえば、あとは『下級国民』のまま老い、死んでいくしかない。『上級国民/下級国民』というネットスラングには、そんな彼らの絶望が象徴されていると思います」

 安倍政権は「就職氷河期」世代を「人生再設計世代」と言い換えるほか、「就職氷河期世代支援プログラム」により、これからの3年間で30代半ば~40代半ばの氷河期世代の正規雇用者を30万人増やそうという計画を立てている。しかしながら、これまでずっと非正規で働き続け、すでに世間的に「仕分け」の済んでしまったひとたちが、いきなり正規雇用になってどんな仕事ができるのだろうか。「下級国民」から這い上がっていく道は、きわめて厳しい。

◆橘玲(たちばな・あきら):1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。近著に『上級国民/下級国民』(小学館新書)、『事実vs本能 目を背けたいファクトにも理由がある』(集英社)など。

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