コンサートやイベントの警備といえば短期バイトの代表格で、注意事項の説明を受けた後はスタッフジャンパーを着て所定の位置に立っているだけということが多い仕事だった。ところが数年前から、格闘技経験がある屈強なメンバーをそろえた警備会社に意識して依頼するイベンターが少なくない。アイドルやゲーム、アニメや漫画など、どちらかというと草食系のファンが集まる催事でその傾向が強まっている。大人しそうなファンになぜ屈強な警備が求められるのか、ライターの森鷹久氏が元コワモテ警備員に聞いた。
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「ヒョロいし、体力もなさそうだし、舐めてましたよ正直…(笑)」
腕は、筆者のふくらはぎほどの太さがあろうか。はち切れんばかりの胸板に、短く刈り込まれたヘアスタイル、どの角度からみても「屈強」の言葉が似合う金田徹さん(仮名・29才)が驚き、そして恐怖を感じたと話すのは、なんと「オタク」の少年たちについてである。
実は金田さん、武道経験者や元不良らで構成されるセキュリティ会社の元メンバー。こうした組織は、関東だけでなく今や全国に存在し、主にナイトクラブのイベントや、格闘技大会のセキュリティスタッフとして引っ張りだこである。ナイトクラブであれば、酒に酔った若者のトラブルも多いだろうし、格闘技大会であれば、場外乱闘の一つや二つは必ず起こる。そうしたトラブルを、力と技術で制圧するのが彼らの役目だ。
「暴れている人がいれば、まずはつまみ出す。相手が食ってかかってきたら、力と技で抑え込む。こちらからは殴れませんから、そうした訓練は日頃からやっています」
筆者も実際に、若者が集まる神奈川・江ノ島の海の家で、酒に酔った若者のトラブルを制圧する彼らの姿を見たことがある。大半の人間は黙ってその場を去るし、生半可な腕っぷしではとても彼らにかなわないとすぐに悟る。実に頼もしい「用心棒」というわけだが、なぜ相手が「オタク」なのに恐怖を感じたと言うのか。
「とある地下アイドルのイベント運営者から依頼を受けてセキュリティをやったんです。毎回トラブルが起きて敵わないということで…。オタクのイベントだろう、と軽く見てしまい、とりあえず僕ともう一人で現場に行ったんですが…」
そこで金田さんが見たのは、スポーツとは縁がなさそうな雰囲気の10代から40代くらいまでの男たちが、汗だくになりステージ上の女の子に向かって絶叫する姿だった。狭い会場に全部で30人ほどの客だったが、皆が我先にとステージに向かって押し寄っている。倒れた客が、別の客に踏まれて流血しているような有様だ。
「あっけにとられましたが、こちらも仕事ですから、危険排除ということでまず、ステージから下がるように言いました。でも誰も聞かない。腕を掴んで移動を促すんですが、振り払ったり、押してきたり、うるせえと睨まれる。僕の知っている“オタク”じゃなかったんですね」