【著者に訊け】高村薫さん/『我らが少女A』/毎日新聞出版/1944円
【本の内容】
『マークスの山』から始まり、『照柿』『レディ・ジョーカー』『太陽を曳く馬』『冷血』に続く、7年ぶり6作目となる刑事・合田雄一郎シリーズの最新作。2017年、同居していた女性を殺害した男の供述から、2005年に起きた「野川の老女殺し」の未解決事件が動き出す。〈当時の事件係は誰だ? 合田? あいつ、いまは警大だったか――?〉毎日新聞連載時に掲載された、画家、イラストレーター、写真家ら24人が日替わりで描いた挿画355枚を収録した「挿画集」(故・多田和博さん監修)も発売されている。
池袋のアパートで若い女性が撲殺され、交際相手が逮捕される。ありふれた事件だが、被害者が12年前に起きた別の殺人事件にかかわっていたかもしれないとわかり、様相は一変する。15歳の「少女A」だった彼女は、この世から永遠に消えた後で、関係者の心の中に様々な形で蘇るのだ。
「解決されずに忘れられていく事件はたくさんありますけど、被害者遺族や加害者とその家族はもちろん、友人や知人といった関係者にもさざ波を起こします。波はあっちでつながり、こっちでつながり、いろんな反応をひき起こす。その連鎖反応が小説空間になる。そういう小説を書きたかったので、逆に核となる事件は目立たないものにしています」
高村さんの警察小説でおなじみの合田雄一郎は、12年前の事件を捜査し、現在は警察大学校で教えているという設定だ。被害者の孫娘をストーカーしていたADHD(注意欠陥多動性障害)の少年を住居侵入容疑で逮捕、少年は事件現場に行っていなかったとわかるが、刑事だった少年の父親は退職を余儀なくされた過去がある。
「もともと、警察小説を書くというのは、私にとっては警察に対する違和感との戦いで、合田というのはそれを表す人物です。作品を発表するごとに合田も年を重ね、『冷血』のときの階級は警部で、現場で捜査をする立場ではないのでかなり書きにくかった。警察小説は現場に出てこそですから。今回は、警察大学校の教授という一線から引いた存在にしました」
12年前の事件の舞台である武蔵野は、高村さんが学生時代を過ごした場所だ。土地の醸す独特の空気が作品にも色濃く描かれる。
つかまえようのない真実を追う小説は、視点人物が次々に代わり、その都度、見える景色も変わっていく。高村さんにとって久しぶりの新聞小説でもある。連載中は、毎回、挿画家が変わった。多くの高村作品を手がけた装丁家で、昨年2月に亡くなった盟友多田和博さんのアイディアだった。
「新しい挑戦をしたいという彼の熱意に引きずられて、私も一生懸命、書きました。毎朝、新聞を開いて初めて見る絵に、ずいぶん刺激を受けましたね」
◆取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2019年8月15日号