猛暑の夏に気をつけたいのが熱中症である。熱中症が起きる場所と言えば、炎天下の競技場やイベント会場などを思い浮かべるが、実際に多発するのは意外な場所だ。
東京消防庁の統計によると、熱中症による救急要請時の発生場所としては、「住宅等居住施設」が全体の40.6%を占め、実は家の中がもっとも多い(2018年6~9月)。高齢者が熱帯夜にエアコンをつけずに寝ていて熱中症になるというケースは多数報告されているが、それ以外にも家の中で熱中症になるケースがある。
熱中症の調査研究をしている千葉科学大学危機管理学部の黒木尚長教授(法医学・救急救命学)は、「風呂」の危険性に警鐘を鳴らしている。暑気を払うためにあえて熱い風呂につかる、という健康法や美容法も提唱されているが、熱中症で倒れてしまっては本末転倒だろう。
黒木教授は、大阪市消防局などがもつ入浴中の事故に関するデータと、65歳以上の男女約3000人を対象にしたアンケート調査の結果を分析したところ、入浴中に浴槽で体調を崩した高齢者のうち、8割以上が熱中症であるかその疑いのあることが判明したという。
これまで風呂場で倒れた人は、ヒートショック(急激な温度変化で血圧が大きく変動して失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こすこと)を疑われていたが、ヒートショックは全体のわずか7%に過ぎず、ほとんどが熱中症だったというのだ。
「“風呂でのぼせた”とされている状態のほとんどが実は熱中症だったのです。42℃のお湯に30分ほど浸かると、体温は40℃に達しますから、重度の熱中症の症状が出て、意識障害を起こしても不思議ではありません。高齢者は老化で熱さを感じにくくなり、長風呂をする傾向があるので、熱中症の初期症状が出ないまま、いきなり意識障害に陥って浴槽で溺死したり、救急搬送先の病院で亡くなったりする。亡くなった方の実際の死因が、心筋梗塞や脳梗塞であるケースは非常に少ないのです」
消費者庁やメディアなどは、高齢者に対し、冬場に「いきなり熱い湯に入らないようにしましょう」「ヒートショックに気をつけましょう」といった注意を促しているが、気をつけるべきは、季節に関係なく、「長風呂」だったのだ。
しかも、これは高齢者に限った話ではない。