今年の夏も集中豪雨による被害が後を絶たない。最近は九州・中国地方の被害が目立つが、いつなん時、首都圏など大都市圏を大規模な水害が襲ってもおかしくない状況だ。
2019年6月、東京大学と早稲田大学が共同研究として発表した「東京23区浸水危険度マップ」では、都心エリアのほとんどが危険地点だと指摘している。同マップは最新技術を駆使し、東京23区内の道路や下水道、貯水施設、そして雨水を川に流すポンプ場の能力はもちろんのこと、そこにある建物の建ぺい率や容積率に至るまでのデータを分析。マップによれば、1日に50万人が通行する標高の低い渋谷のスクランブル交差点も危険地域だ。
◆マップが移さない危険地帯
だが、このような“ハザードマップ”で指摘されていなければ安全というわけでもない。慶應義塾大学名誉教授でNPO法人『鶴見川流域ネットワーキング』代表理事の岸由二さんは、「都道府県ごとのハザードマップが映さない“流域”こそが危険」と警鐘を鳴らす。
「私たちは地球のでこぼこの上で暮らしています。雨が降ると川に水が集まるが、川ごとに“領土”があって、それを流域と呼びます。その流域こそが水害を起こすもとになる。つまり、『東京都江戸川区』が水害を起こすのではなく、『荒川流域』や『利根川流域』が水害を起こすのです」(岸さん・以下同)
ハザードマップは都道府県や市町村といった行政区域単位で出されているが、水害は人間が作った区切りなど関係なく乗り越えてやってくる。
「ハザードマップも一定の有用性があると思いますが、平均的なことしか記載されていない。自分は何という川の流域に住んでおり、どういう地形に囲まれていて、大雨が降るとどういうことになるか。そういうことを自力で知っておかねばならないのです」
岸さんは、2015年9月の関東・東北豪雨にともなう大洪水を引き起こした鬼怒川の氾濫も大きな被害が出たのは「流域」の視点が欠けていたことが、1つの理由だったという。
「鬼怒川の水害で最も被害が大きかったのは茨城県ですが、大雨が降ったのは中禅寺湖のある栃木県の源流域。行政がそれぞれの単位でしか見ていなかったため危機感が共有できず、大きな被害を出すことになった」
まさに行政の縦割りの弊害が表面化した例だろう。
「わが国には大小の川がはりめぐらされており、どんなに都心に住む人でも必ずどこかの『流域』に属していると考えていい。上流に大きな流域地形が広がって雨水が集まりやすいなど、個々の地形の事情は、平時から私たち住民自身が把握しておくべきなんです。できれば町内会などのコミュニティー単位で情報を共有できているのが理想です」
自分の住む場所の「流域」がわかれば、国土交通省のWebサイトで「〇〇川水系洪水浸水想定マップ」が閲覧できる。一見の価値がある。
※女性セブン2019年8月22・29日号