簡単には比べられない。だからこそ、面白い。80年以上にわたる日本のプロ野球の歴史のなかで、誰が「史上最高の選手」なのか? 歯に衣着せぬ物言いで知られる達川光男氏(現役/1978~1992年、所属/広島。以下同)も「週刊ポストさんの頼みでも、史上最高の選手を1人選ぶなんてできんよ」と苦笑いする。
「数字だけを見れば、金田(正一氏=1950~1969年、国鉄ほか)さんの400勝、王貞治さん(1959~80年、巨人)の868本塁打、イチロー(1992~2019年、マリナーズほか)の日米通算4367本安打といった長年活躍を続けた選手の記録が飛び抜けているが、一方で短命でも凄い選手はいましたからね。
結局、自分が直接戦った相手のことしか言えないよ。ワシの経験でいえば、江川卓(1979~1987年、巨人ほか)がズバ抜けていたと思う。高3の時のセンバツで江川が投げるのをスタンドで初めて見た時は、度肝を抜かれたね。まさに、“ボールがうなりをあげている”という感じでしたよ」
達川氏は「自分が対戦したことのある選手のなかから選ぶなら」と限定した上で、江川氏を投手ナンバーワンとしたが、同い年の2人は甲子園でも対戦している。“怪物・江川”を目の当たりにした思い出をこう振り返る。
「1973年春のセンバツ準決勝で江川の作新とぶつかって、ワシら広商(広島商業)が2対1で勝ちました。ただ、50歳の時に、江川に言われてしまったんです。“あの試合は前日に寝違えて軽く投げていた”と(笑い)。
江川とは仲がいいから、ワシに対してははっきりとものを言う。プロになってからも“タツ(達川氏)には思いっきり投げていない。衣笠祥雄さん(1965~1987年)や山本浩二さん(1969年~1986年)には本気で投げないといけないから”と真顔で言っていた。得点圏にランナーが進んだら一気にギアを上げたり、相手や状況に合わせて投げていたよね。ただ、ここ一番で投げてくる真っ直ぐはファウルチップが精一杯で、前に飛ばなかった。あとはカーブのコントロールが抜群。稲尾(和久氏=1956~1969年、西鉄)さんも針の穴を通すコントロールだったと聞くが、打席で見たことがないから比べられないよね……」
※週刊ポスト2019年8月16・23日号