芸能

『水戸黄門』が50周年、脚本家はすぐに終わらせる予定だった

『水戸黄門』に主演する武田鉄矢(撮影/江森康之)

 日本の時代劇でもっとも有名な作品といえば、多くの人が『水戸黄門』を挙げるだろう。この時代劇の名作が今月で50周年を迎えた。これまで25年以上、『水戸黄門』を取材してきた時代劇研究家でコラムニストのペリー荻野さんが知られざる逸話を綴る。

 * * *
 そんなわけで、武田鉄矢主演の『水戸黄門』(BS-TBS)第二シリーズは九州世直し旅を続けて、博多に到着。11日最終回のタイトルは「老公、なんばしよっと?」であった。最終回だけに、内容もてんこ盛りの大サービス。なんと博多にご老公こと水戸光圀(武田)にうり二つの金貸しおや(武田二役)がいて、大騒動になる。金貸しおやじは「このバカちんが!」と武田の得意文句を連発。このことによって、「武田鉄矢は博多弁を使うと声のトーンが高くなる」と判明したのだった!…って、ここに感心している場合じゃなくて、重要なのは、この8月でTBS系の“今のスタイル”の『水戸黄門』が、50周年となったということだ。
 
 おー。すばらしい。ただし、「今のスタイルの」とつけたように、この50周年は、1969年8月に始まったTBS「ナショナル劇場」の枠でスタートしたシリーズについて。水戸光圀がお供の助さん、格さんと世直し旅をするストーリーは、このシリーズ以前にも映画やテレビで多数映像化されている。いざとなると格さんが「控えおろう!」と、葵の御紋の印籠を見せて、悪人たちをギャフンと言わせるスタイルが定着したのは、「ナショナル劇場」だったのだ。
 
 これまで私は25年以上、『水戸黄門』について取材してきたが、このシリーズのスタート時については、意外な事実も多かった。

 一番意外だったのは、そもそもシリーズにするつもりがなかったということ。番組スタートの準備期間は4か月ほどしかなく、当初決まっていた主役(森繁久彌)は諸事情によって降板したことはよく知られている。初代ご老公が俳優座の重鎮・東野英治郎に決まったものの、内容がなかなか固まらない。月曜8時、家族みんなで楽しめる「時代劇ホームドラマ路線」でいこうとしたが、大御所脚本家から届いた第一話は、壮大なストーリーで、とてもホームドラマどころじゃなかった。

 そんな危機的状況を救ったのは、脚本家の宮川一郎。ドラマ『家売るオンナ』などで知られる脚本家・大石静の師匠である。シリーズ化が決まっていなかったため、最終回に「終わり」と書いた宮川先生は、執筆のため缶詰めになっていた旅館から抜け出して、飲みに行ったところ、スタッフから「好評につき、『終わり』では困る」と呼び戻されて、末尾を書き直したというエピソードもある。なお、森光子、渡哲也ら大御所俳優が多数出演してきたが、『銭形平次』『暴れん坊将軍』に出演した美空ひばりは『水戸黄門』には出演が実現しなかった。ご本人は出演を希望していたと聞くと、本当に残念だと思う。

 それから50年。今年7月に放送されたNHK『LIFE~人生に捧げるコント』の「水戸黄門」コントでは助さん(伊藤健太郎)が、ご老公(内村光良)が自分と格さん(中川大志)の名前を「助さん格さん」とまとめて覚えて区別できないのではと疑い、あの手この手でご老公に自分の名前を呼ばせようとする。わざと印籠を落とし、ご老公がちゃんと格さんに渡すのかと思ったら、助格ふたりの間にきっちり置くだけって。やっぱり区別ついてない?

 こんなコントができるのも、視聴者が『水戸黄門』の基礎知識があるという前提があってこそ。50年前、宮川先生が「終わり」と記したままだったら、今はなかった。そう思うと感慨深い。

 BSなどで『水戸黄門』放送は続く。故郷での夏休みに家族で観る機会があれば、半世紀続くシリーズだということ、思い出してください。

関連記事

トピックス

10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン