社会を揺るがす事件が起きた際、ネットが論壇と化すのは中国も同様である。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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ありがちな話だが、それでもネットで大騒ぎになったのは、今年5月、上海で起きた窃盗事件である。窃盗して捕まったのは若い出稼ぎの家政婦である。パートタイムで雇われた家で、高級腕時計を盗んだ疑いが持たれた。
事件の全容は、6月4日『申江服務導報』が報じている。そのタイトルは、〈パートタイムの若い家政婦が家主の7万元(約105万円)もする高級時計を盗み、体内のとんでもないところに隠していた ネット市民は「なんて汚いんだ」と反応〉である。
高級腕時計がなくなったとの通報を受けて上海市の警察が現場に駆け付けたのは、5月25日のことだ。すでに家政婦に疑いの目が向けられていたのは言うまでもないが、警察官が彼女の身体を探しても腕時計はいっこうに見当たらない。
仕方なく調書を作成するため、彼女にいろいろと質問をしていると、不思議なことに家政婦はみるみる青ざめ、不自然な動きをし始めたという。そこで念のためということで体の中を調べるためにレントゲンを撮ったのだった。
すると、驚いたことに彼女の内臓部分から金属の塊が見つかり、問いただしたところ腕時計だと認めたというのだ。
腕時計は間もなく専門家により彼女の体から取り出され、事件は一件落着となったのだが、事件をうけてネット市民たちは激しく反応した。その最も熱い論点は、この時計をまだ使うのかどうかという一点だった。