かつて昭和の高度経済成長期には中間層の増大から「一億総中流」なる言葉が生まれ、平成から令和へと時代が変わっても、いまだにその言葉が日本社会を象徴するものと信じている人たちがいる。その一方で、「実は自分たちが中間層というのは思い込みで、本当は上級と下級に分断されていて、その格差は拡大するばかりなんじゃないか」と薄々気づいている人たちも少なくないかもしれない。
作家の橘玲氏は、新刊『上級国民/下級国民』で、そんな日本人の本音をあぶり出し、さまざまな視点から論考を重ねている。
「すでに一億総中流は崩壊し、上級/下級への分断の流れは後戻りしようがありません。それは『ベルカーブの世界』から『ロングテールの世界』への変化なのです」と同氏は説明する。
まず「ベルカーブの世界」とは、別掲の図上のように、富の蓄積が平均値を中心に正規分布する曲線のことで、中間層が最も厚くなっていて、上流、下流ともになだらかに少なくなっていく状態を指す。「昭和」の日本社会が「一億総中流」といわれたのも頷ける。
しかし、そんな状況がいつまでも続くわけではない。
「グローバル化によって世界が全体としてゆたかになった代償として、欧米先進国を中心に『自分の人生を自由に選択する』というリベラリズム(自由主義)が広がり、共同体が崩壊して社会が流動化するとともに中間層が崩壊しました。その流れが日本社会にも大きな変化をもたらし、富の分布も『ロングテールの世界』へと変貌しているのです」(橘氏)
「ロングテールの世界」(図下)では、ほとんどのことがショートヘッド(平均)近くに集まる一方、ロングテールには「とてつもない富」を手にする者が出現する。