8月8日、世耕弘成経産相は、韓国向けの半導体材料など3品目について、一部の輸出を許可したと明らかにした。これまで日韓のメディアは「事実上の禁輸措置」と大騒ぎしてきたが、政府は、審査に合格すれば許可するという姿勢を示したことになる。
奇しくもこの日、韓国政府は日本の輸出管理強化に対する事実上の報復策を発表した。中央日報(2019年8月9日付)は以下のように伝えている。
〈この日、環境部(編注:韓国環境省)は「汚染の懸念がずっと提起されている輸入石炭灰に対して放射能・重金属成分を直接全数調査する予定」と明らかにした〉
石炭火力発電所から出る石炭灰はセメントの材料に使われているが、現在、韓国では石炭灰需要の4割に当たる約127万トンを輸入に頼り、そのほぼ全量が日本産である。これまで輸入石炭灰は、四半期に1回、調査を行なっていたが、それを全数調査に変えるという。環境当局の調査がこれまでの年間4回から約400回まで増えるとしている。
輸入の事務手続きを煩雑化させて日本産の石炭灰をストップさせるという“報復案”で、韓国のセメント業界も在庫がひっ迫して打撃を受けるようだが、ここで看過できないのは、韓国の環境部の〈汚染の懸念がずっと提起されている輸入石炭灰〉という表現である。韓国の輸入石炭灰=日本産の石炭灰であり、まるで日本産の石炭灰だけが放射能で汚染されているかのように受け取れる。
そもそもセメントの原料に使われる石炭灰には、日本産かどうかに限らず、放射性のカリウム(K-40)やトリウム(Th-232)、ウラン(U-238)などが含まれている。なぜ石炭灰に放射性物質が含まれているのか。環境問題が専門の安井至・東大名誉教授はこう解説する。
「もともと石炭には放射性物質が含まれており、石炭を燃やしたら灰にも残るというだけです。石炭は数千万年から数億年前に動物や植物の死骸などが堆積して地中に埋没して高温・高圧状態に置かれてできたもの。そもそも動物や植物は放射性カリウム(K-40)をもっていますから、自然と石炭にも含まれている。人間だって誰もが5000ベクレル程度の放射性カリウムを体内に持っています」