超難関中学に進学した女優・芦田愛菜(15)が読書愛を語る著書『まなの本棚』が、発売早々ベストセラーに。孫を本好きにしたいと願う祖父母世代が多く買い求めているというが、ではどんな本を孫に読ませればいいのか──。作家の椎名誠氏(75)が勧めるのが、『三びきのやぎのがらがらどん』(マーシャ・ブラウン絵/瀬田貞二訳)だ。
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子供は二人できた。姉と弟だ。赤ちゃんから幼児になるにしたがってコミュニケーションが必要になる。男の子ならまだしも女の子とどう付き合っていけばいいかよくわからなかった。
その時頼りになったのが絵本だ。片っぱしから読み聞かせているうちに『三びきのやぎのがらがらどん』が二人とも妙に気に入ってしまって、何十回、何百回と読まされたことか。
大中小の山羊が草を食べておなかをいっぱいにするために橋を渡っていくという話。その橋の下にトロルというぐりぐり目玉の大きな怪物がいて、橋を渡る山羊たちに大きな声でどなる。そのたびに、二人は必ず同じところでぎょっと体をすくめる。それが面白くてこちらも読むのに力が入った。
娘も息子も大学を出るとアメリカに行ってしまったが、時々屋根裏に行って本棚にあるその本を見かけると、苦労しながらも小さいころからコミュニケーションがとれたのだなとほろ苦く思い出したものだ。
その後、数十年してアイスランドに行ったとき、海岸に十メートルほどの大きな石像があった。トロルだった。子供たちは本気で怖がっている。大人よりも子供の方が本能的に感性が深いのだなと思った次第。
今現在は日本にいる三人の孫たちにその本を見せている。三人ともやはり同じところで身をすくめている。
※週刊ポスト2019年8月16・23日号