国民食と言われて久しい牛丼だが、“進化”は続いている。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。
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今年の夏は、牛丼にとって実にプレミアムな夏だ。しかもその先陣を切ったのは、意外なことに牛丼チェーンではなかった。日本の誇る老舗ホテル「ザ・キャピトルホテル東急」のレストラン「ORIGAMI」が「キャピトル牛丼」なるメニューを6月16日から売り出したのだ。
自ホテルの名前を冠しただけあって、ホテル側の気合いがメニューの端々から見て取れる。まずお値段が5464円(税金・サービス料込み)と実に気合いが入っている。牛丼としては驚くほど高額で、実はメニュー開発には約1年半という期間を費やしたという。肉は黒毛和牛のリブロースを合計150g。丼のアタマ”には和牛、それに都度調理する兵庫産の玉ねぎも加えられている。めしの量は180g。ほぼアタマと同量で、食事によし、つまみによしという、たいへんな大型ルーキーの登場である。
そこで黙っていなかったのが、創業120周年の「吉野家」である。ホテル業界に“聖域”を侵食されては、牛丼業界の雄の名折れとばかりに8月14日に「サーロイン」を使った「すきやき重」を発売。吉野家伝統の煮ダレで軽く煮たサーロインが120g、お重に盛られためしの上に鎮座して860円。発売初日には10時から販売が開始され、各店舗で売り切れが続出。15日からは「11時からその日の食材がなくなるまで販売」する方式にシフトした。
ちなみに吉野家の不動の人気メニュー「牛丼」の並盛りは、”アタマ”が肉の量の約80gと玉ねぎを合わせて約90g、ごはんはおよそ250gで価格は380円。やはり圧倒的に破格である。
◆肉原価率を比較する
さて3種類の“牛丼”を肉ベースで比較したとき、一番オトク度が高いのはどれか。一般でも入手できる業務用通販サイトの価格を参考に比較しつつ、インプレッションを残しておきたい。
・吉野家「牛丼並盛り」
US産穀物肥育の業務用ショートプレート(バラ肉)がざっくり950円/kg。「並盛」のアタマに使われている肉は80gと言われている。つまりアタマにかかる牛肉の原価は76円相当で、牛丼並盛りの値段は380円。肉原価率は20%。米国産穀物牛のバラ肉の濃厚な味わいを活かすレシピは、長年積み上げられた安定の味わい。みそ汁、卵、漬物などは別注文となる。
・吉野家「すきやき重」
US牛の業務用の価格を見てみると、リーズナブルなサーロインでだいたい2000円/kg程度。120gが使用されているので、肉の原価は240円。吉野家のすきやき重は860円なので想定肉原価率は28%となる。サーロインはロース芯の部分にはそれほどサシが入っておらず、通常の牛丼に比べると煮込み時間も短め。その分、ごはんに甘辛いタレがかかっている。イートインで生卵にエッグセパレーターがつくのは、卵黄のみの使用を推奨か。残った白身の使い方もご提案いただけるとありがたい。みそ汁、漬物つき。