アフリカ・ケニアで野生動物の保全活動に携わる日本人女性がいる。ケニア政府が公認した唯一の外国人獣医で、NPO法人「アフリカゾウの涙」専務理事の滝田明日香氏だ。
アフリカでは、年間約3万頭のゾウが密猟者によって虐殺され、絶滅の危機に瀕している。保全活動の仕事は「何でも屋です」と滝田氏は語る。
「サバンナでは、何でも自分でできる人じゃないと働けません。ケガをしたゾウを治療するのはもちろん、同僚レンジャーへの無線指示や食料物資の補給などバックアップもしています。
密猟者の追跡犬、象牙の探知犬の育成もします。治療時に逃げたゾウを空から発見するために、軽飛行機の免許も取りました。ゾウの捜索は、車なら3日くらいかかりますが、空からなら20分くらいで見つけられるんです」
滝田氏がゾウの保全活動に注力し始めたのは、密猟が急増した2012年だった。密猟者はゾウの顔面から「牙」だけを抉り取っていく。象牙を印鑑やアクセサリーとして欲する日本や中国の需要が、虐殺を生んでいる現状があるという。
「現地の人から『日本人は何のために象牙を欲しがるの?』と聞かれます。20年近く保全活動をしているのに、実は私の祖国では象牙印鑑が何気なく使われている。
アフリカではゾウが殺され、同僚が密猟者に殺されたり、象牙の違法取引を軍資金にしているテロ組織によって、現地の若者が殺されたりしています。遠い国のことなんて関係ない、では済まされない。人が死んでいるんですから……」
8月28日まで、国際的な象牙取引の禁止を議決するワシントン条約締結国会議が、スイス・ジュネーブで開かれている。象牙印鑑を使う日本人の“無知”が、知らないうちに密猟に荷担している──そうした事実を「多くの人に知ってほしい」と、滝田氏は語った。
※週刊ポスト2019年8月30日号