【著者に訊け】赤松利市氏/『純子』/1300円+税/双葉社
昨年、『藻屑蟹』で第1回大藪春彦新人賞を受賞し、〈62歳 住所不定 無職 平成最後の大型新人〉として話題に。以来、「浅草に月極で借りた漫画喫茶」を拠点に作を重ね、元会社経営者にして元除染作業員という異色の経歴も持つ赤松利市氏の作品群は、書かずにいられない魂こそが書かせた、純然たる文学、だと思う。
早くも5作目となる新作『純子』の舞台は、讃岐山脈の北斜面にある〈沁山〉。母の死後、下肥汲みで糊口を凌ぐ祖父母の下で育ち、学校で苛められてもどこか超然とした純子は、岡山・中島遊郭の売れっ子だった祖母から〈オレらをビンボから救い上げられるのは、純子、おまえだけやけに〉と言って色の道を仕込まれる、賢くて感性豊かな美少女だ。
だが、〈西瓜淵〉の湧水に守られた前近代的な村にも高度成長の波は押し寄せる。これは村の危機を救うべく立ち上がった、〈少女とうんこのとても美しい物語〉!?
「イメージしたのは母方の実家があった小豆島の肥土山という人里で、昭和31年生まれの私の原風景です。ちょうどこんな淵があって、母の家も人の農地を耕して手間賃をもらう貧しい家でしたが、あの頃が一番楽しかった気もするんですよ。
もちろん私は高度成長もバブルもよう知ってます。一時は時給で最高400万円稼ぐくらいゴルフ場の仕事で儲けました。それがあの震災で全部ダメになって、福島で除染作業員をやったり、東京に来ておっパブの客引きやったり、それはもうえらい転落人生を送ってきたんで、書きたい話はなんぼでもあるんです」