「この紋所が、目に入らぬか!」「助さん、格さん、もういいでしょう」そんな決まり文句とともに“ご隠居さん”こと水戸光圀公が全国各地を旅した国民的時代劇『水戸黄門』。全国行脚はフィクションだったが、もととなった史実をひもとくと、光圀公は74才にして食道がんで亡くなるまで、「大日本史」の編さんをするなど精力的に活動した。
水戸光圀に代表されるように、江戸時代の高齢者の多くは健康長寿を体現していたのだ。背景にあったのは、江戸の名医たちによるきめ細かな“生活指導”だという。その中でも、江戸時代中期に活躍した伝説的名医である香月牛山(1656-1740)が書いた『老人必用養草(やしなぐさ)』という医学書には、現代にも通用する健康で長生きするためのヒントが多く詰まっているという。
◆正座が長寿をつくる
昔のお年寄りを思い返すと、普段からよく「正座」をしていた印象がある。実はそれが長寿のもとであるようだ。牛山はこう記す。
(以下、《》内は『老人必用養草』からの抜粋)
《老人常に座する所、冬は綿の入たる圃団をしきて、後に坐ろくやうの物を置て、もたれて盤座すべし。常に平臥を好むべからず》
要するに、体を横たわらせるよりも、座布団などに座って静かに過ごす方が、健康を保つことができると牛山は訴えている。ゴロゴロと寝転んでばかりいてはいけない、というのだ。
訪問診療を実践し、高齢者の健康に詳しい新田クリニック院長の新田國夫さんは「理にかなっている」と太鼓判を押す。
「昼間から寝そべってゴロゴロしていると背筋力や起立筋など体幹の力が衰え、体のバランスがとれなくなってしまいます。
座る時は背もたれに背中をつけない方が鍛錬になります。しかも、座布団ならば立つ時に必ず大腿四頭筋という太ももの前側の大きな筋肉を使って立ち上がることになり、自然と鍛えられます。ただし、超高齢時代の現代において、くれぐれも無理は禁物です」(新田さん)
よっこらしょ、と立ち上がるのもエクササイズになっているわけだ。諏訪中央病院名誉院長で脳卒中の死亡率が全国ワースト2位だった長野県を日本一の長寿県へと導いた鎌田實さんも声をそろえる。
「1時間に2分間立ち上がることで死亡リスクが40%減るという研究データがあります。日本人は世界でも座っている時間が長い人たちだとされますが、寝ているより座る、そしてときどき立ち上がることが健康につながります」(鎌田さん)
◆「フレイル予防」は江戸生まれ