認知症の母(84才)の介護をすることになったN記者(55才・女性)。母は認知症以外には大きな持病もなく、明朗快活が取り柄で突然の異変だったと、N記者は振り返る。異変の理由は、なんと帯状疱疹だった。高齢者の帯状疱疹の恐ろしさをお伝えしよう。
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「Mさん(母)、いつもと様子が違うの。もしかしたら脳の検査をした方がいいかも」と、母が通うデイケアの人から電話がかかってきた。
普段は、食事の配膳を手伝うほど明るく元気に動くのに、その日は無表情で、気づくとウトウト。食事もほとんど食べられなかったという。そんな様子は私も見たことがない。
6月からの記録的な長雨が続いていた頃だったから、「うつ病? いや介護のプロが“脳の検査を”と思い当たるくらいだから脳梗塞?」と、次々に嫌な憶測が浮かび、慌てて母の元へ駆けつけた。
話しかけると一応言葉は出るし麻痺もない。血圧と体温も平常値。でもいつもの母ではない。さてどうするか。厄介なことに明日から連休という日だった。動くなら今しかないと思い、まず#7119に電話。
「いつもと明らかに違う」「介護士が脳の検査をすすめた」ことを強調しながら、母の様子を伝えると、「緊急性はなさそうですね。様子を見てもいいかも…」と、つれない返答。
素人としてはこれ以上食い下がれず、あきらめて電話を切ろうとした時だ。モゾモゾ脇腹を触っていた母のシャツがめくり上がり、その下にギョッとするほど赤くただれた肌が見えた。
「えーっ!? お腹のあたりが真っ赤です! 膿も出てグジュグジュ! それ、どうしたのよ!? ママーッ!!」と、急に絶叫モードで、でも必死に電話口で実況中継。救急相談の人もさぞ驚いたのだろう。即、救急車出動となった。
「えっ!? ここ救急車? すごいわ! 私、生まれて初めてよ。よく見ておかなきゃ」
今、自分の足で救急車に乗ったことも即忘れ、母はウキウキと興奮気味だ。少々気まずい車内の空気に耐えつつ、運ばれた病院で診察を受けると、なんと病名は帯状疱疹。
「え、脳は関係なし?」と、心の中で大いに愕然とした私。
「体の右側だけ発疹が出てるでしょ? 気づかなかった? たいてい痛みから始まるけれど、認知症があると痛みを感じにくいこともあるから、気をつけてあげなきゃ」と医師。認知症の老親と別々に暮らす娘の痛いところを突いてきた。
処方は内服薬と塗り薬。内服管理はヘルパーさんに頼めるが、塗り薬は無理だ。その日の夜から毎日通い、母を入浴させ、薬を塗るという実質的な介助をすることになった。
これまではなんとなく寄り添って母の自立を支援する立ち位置だったのが、さらに一歩、母の領域に踏み込む。世の多くの介護家族にとっては当たり前のことだが、私と母には初めての“介助する・される”作業なのだ。
「はい、シャンプー泡立てて」「背中流すよ」と、あえて無心で作業した。母も促されれば自分で洗えるのでスムーズだった。でも、赤くただれた背中の帯状疱疹にシャワーを当てると、母と2人、介護の階段をひとつ上ったようで、胸がいっぱいになった。
「はい、サンキューでした」
薬を塗って髪を乾かし、作業が完了すると、母が明るく言った。私が子供の頃から続く口癖が、うれしかった。
※女性セブン2019年9月5日号