会社における働き方や待遇、以前問題になった男子学生偏重の医学部入試の例を持ち出すまでもなく、男女格差は依然として存在するというのが、世の中の本音だろう。ことここに至っても日本社会が「男性優位」であることに異論を挟む余地はない。にもかかわらず、「女性は男性よりも幸福度が高い」と言われたらどう感じるだろうか。
作家の橘玲氏は、話題の新刊『上級国民/下級国民』(小学館新書)の中で、豊富なエビデンスをもとに、男女の幸福度の違いについて分析している。
同書では、現代日本社会を包括的に研究・分析した「SSP(階層と社会意識全国調査)2015」の調査結果を紹介。同調査では、「あなたはどの程度幸せですか?」の質問に「幸福」と答えたのは男性67.8%、女性74.0%。「生活全般にどの程度満足していますか?」の質問に「とても満足」「やや満足」と肯定的に答えたのは男性67.0%、女性74.1%だった。日本の女性は男性より6.2ポイント多く自分を「幸福」だと思い、7.1ポイント多くいまの生活に「満足」しているという。
橘氏は、「これはけっして小さくない差です」と言う。
「世界価値観調査でも、日本は幸福度の男女差がもっとも大きな国(女性の幸福度が高く、男性が低い)とされています。ジェンダーギャップ指数が世界最底辺の110位の日本で、社会的地位が低いにもかかわらず女性の幸福度が男性より高いというパラドクスには、いまだに決定的な説明はありません。ただ、男性と女性で“モテ”の仕組みがちがうことが影響しているのではないかと私は考えています。
あらゆる調査が明らかにしているように、女がモテる最大の要素は“若さ”です。イギリスの社会学者キャサリン・ハキムは、〈若い女性は大きな“エロス資本(エロティック・キャピタル)”を持ち、それを資本市場でマネタイズ(換金)している〉と述べています。ハキムによると、女性のエロス資本は年齢によって大きく変動し、10代後半からの10年間で最大になって、それから徐々に減っていき、35歳を過ぎるとほぼ消失する──とされます。
これに対し、男性の場合は“カネと権力”すなわち共同体内での地位がものをいいます。男性が所属と階級を過剰に気にするのは、それがモテに直結するからです。そのため男はグループ内で自分を目立たせる競争をすると同時に、自分が所属する集団をナンバーワンにするはげしい競争(部族闘争)をするように進化しました。男は『持てる者』になる(大きな集団で高い地位について金持ちになる)ことで女に『モテる』のです」(橘氏)