校則全廃、制服・髪形自由、出たくない授業は出なくてもいい、生徒が先生を評価する――規格外な取り組みで話題となっている世田谷区立桜丘中学校。そんな環境を実現したのが同校の校長・西郷孝彦さん(65才)だ。
近頃は、「空気を読む」ことが重視され、けんかをしたことがない生徒たちも多いという。しかし、そういった生徒たちに対して、あえて波風を立ててみるようなこともあるという西郷さん。
「雰囲気が悪くなってけんかに発展するグループもあれば、褒められた子が“あんなことを言われてもうれしくない。先生のことは好きじゃないし、本当はイヤ”と私を悪者にすることで、友人との関係を修復しようとするパターンもある。みんな悩みながら自分なりの戦略を考えるんです」(西郷さん・以下同)
生徒一人ひとりに人間関係のトラブルを回避できるスキルが身につけば、いじめも起こりづらく、不登校も減少する。同校では学年が上がり、成長するに従って、いじめは確実に減っていくという。
衝突によって自分自身を見つめ直した生徒もいる。
「同級生を殴ったり物を壊したりして居づらくなり、小学校を転々とするようないわゆる“問題児”としてわが校に入学してきた子がいました。すぐキレるので、当然、ここでもなかなか友達ができません。私はそのAくんがどういう時に爆発するのかを知るためにも、機会を見てはよく話しかけていました。そうしているうちに、すっかり“友達”になったんです」
Aくんにとって、西郷さんは中学校での初めての友達だ。
「だけどある時、Aくんがほかの生徒といさかいになって暴れていたことがありました。落ち着かせようと近づいたら、気が立っていたのか、Aくんは“友達”であるはずの私を思いっきり殴ったんです。その事件がAくんにとってはショックだったようです。いちばんの理解者をポカッとやっちゃったわけですから」
この出来事をきっかけに、Aくんは少しずつ変わりはじめる。