校則全廃、制服・髪形自由、出たくない授業は出なくてもいい、生徒が先生を評価する。規格外の学び舎・世田谷区立桜丘中学校が変わっているのはそれだけではない。
成長するためには時に対立も必要。空気を読むことばかりうまくならないように、校長の西郷孝彦さん(65才)は時にあえて波風を立てることもあるという。人間関係のトラブルを解消できるスキルを身につけられると考えているという。
とはいえ、子供がけんかしたと知れば親としては心配になるし、いじめに発展しないかと不安にもなる。一方で、「子供のけんかに親が出る」ということわざもあるように、かかわりすぎても成長を阻んでしまわないかと気をもむ。親はどう対応すべきか。
「絶対にやってはいけないのは、子供が納得していないのに無理に謝らせること。小学校でよくやる“どちらも悪いところがあったから、これで仲直り”と無理矢理握手させることは絶対にしてはいけません。何か理由があるからけんかしたわけですし、反対に理由がなければ、それは単なるいじめ。安易にけんか両成敗にしてはいけないのです」
また、大人(第三者)が話を聞いた上で、良い・悪いの判断をするのも避けたい。
「ただ話を聞いて“気持ちはわかった”と気持ちを理解してあげるだけです。こちらから仲直りの場を設けたり、謝らせたりすることもしません。事情を話しているうちに“悪かった”と思えば、自ずと謝るでしょう。もちろん必要とされたなら、手助けはします」
ただし、相手を傷つけたりけがをさせたりした場合には、親は謝りに行くべきだと西郷さんは続ける。
「その場合もまずは子供の話を聞いて“自分は悪くない”と言っているのであれば、絶対に謝らせないこと。“気持ちはわかったけれど、お前が手を上げたのなら、それは社会のルールに反することだ”と話して、親が相手の家に謝りに行けばいい。子供はその姿を見て“お母さんに謝りに行かせてしまった”と思って、気持ちが変わるようになる。
理由があってのけんかではあったけれど、自分の正義だけを通そうとしては、大事な人を傷つける可能性があるのだという、複雑な社会を理解するようになるでしょう」
かつて西郷さんも、生徒のために何度も謝りに行った経験があるという。
「まだ私が教員をやっていた頃の教え子で、しょっちゅう万引をしたり警察のお世話になったりしていた男子生徒がいたのですが、何か起こすたびに私がひとりで謝りに行っていたんです」
謝れとも万引は悪いことだという説教もせず、「先生はきみの担任だから」とだけ言って謝りに行った。
「やがてこの生徒は、自分が悪さをするたびに、私を謝らせることになると気づき、落ち着いていきました」
けんかはいわば“心の成長痛”なのかもしれない。大人になる過程での大事な経験を、親は流儀をもって見守りたいものだ。
※女性セブン2019年9月19日号