バズれば人気者、炎上すれば人として終わり──今や誰しもが、ネットやSNSのニュースや世論に一喜一憂している。そんな状況にあって話題を呼んでいるのが『エチカの時間』という漫画だ。「倫理」というテーマで現代に一石を投じるのが、漫画家の玉井雪雄氏。玉井氏に話を聞いた。
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玉井:していいこと、してはいけないこと、したほうがいいこと、するべきじゃないこと、したら怒られること、したらいい人と思われること、したら終っちゃうこと、したらどーにかなっちゃいそうなこと…などが最近ごっちゃになっている気がしていまして。それが、『エチカの時間』を描こうと思ったきっかけです。
それらは誰が決めるのか?というと日本人の場合、よく言われることですが、その場の空気が決めてしまう。しかもSNSなどが普及したせいで、それが合議制になってしまう。“巨大な村の合議制”でしっかり議論されることなく、世の中の常識や良識が事細かく決まっていく。この事に非常にストレスを感じていたんです。
──現代の世論の作られ方に疑問があった、ということですね。漫画ではSNSの他に現代のキーワード「AI」や「AIの育倫」もテーマになっている。
玉井:これまで『知能って何だろう?』とずっと考えてきたんですが、『AIにおける知能というものの進化や発達には“肉体”が不可欠だ』という記事を読んで、AIが知能を獲得するためには、どの“立ち位置”=肉体から情報を処理するかが必要で、立ち位置を決めるのが、結局、倫理というものなのかなと思いました。それが肉体が不可欠ということかなと。だからAIに倫理というテーマはハマる気がしました。
──『エチカの時間』のタイトルに込められた意味とは?
玉井:「倫理」とか「道徳」というと、どうしても小学校の道徳の時間を思い起こさせてしまい、詰まらなさそうですね。また『モラル』と言っても最近はモラハラとかって、言葉の使われ方が怪しげな感じがして…。そんなとき、倫理哲学というのを調べていたらスピノザの『エチカ』という著作を知って、内容は読んでもなんのことやらさっぱりですが、どうやらエチカ(ethica)はethics(倫理)の語源だということで音感もいいと思ったので。
また、倫理というのは時代とともに進化して行くものだと思っています。今、AIやインターネットや流通や仕事や家族や子育て……あらゆるものが変わっているのに、実際はなんとなく昭和の倫理観で生きている気がして。(自分だけではなく社会全体ですが)そろそろ次のエチカを考える時間だというのが、“時間”とつけた理由です。