優れた論文の数々で世界を驚かせた経済学者、故・宇沢弘文氏(1928生~2014年没)の評伝『資本主義と闘った男』(講談社)は、故人の人生だけでなく20世紀の経済学史そのものを描いたものだ。同書を読み、歯ごたえのある評伝だと感銘を受けた諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、そこから想起させられた現在の日本と世界について語る。
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久しぶりに歯ごたえのある評伝を読んだ。『資本主義と闘った男──宇沢弘文と経済学の世界―』(佐々木実著、講談社)。600ページを超える力作だ。
「ノーベル経済学賞に最も近かった男」といわれた宇沢の足跡をたどりながら、その50年の間に経済がどう動いたか、わかりやすく書かれている。
宇沢の恩師ケネス・アローなど、4人のノーベル経済学賞を受賞した経済学者を訪ね、宇沢についてインタビューしている。世界はなぜ市場原理主義の時代を生き続けているのか、世界から絶賛された数理経済学者がなぜ突然「長い沈黙」に入ったのか、解明されていくところがおもしろい。
2014年に亡くなった宇沢は、「社会的共通資本」という概念を提唱し、人間を幸せにするための経済を生涯追求してきた。
しかし、現実の経済はまったく逆方向に進んでいる。経済の金融化を強力に推進し、規制緩和による新自由主義経済が広がることで、途方もない所得格差をもたらした。それは、世界的な金融危機にもつながっていく。
小泉政権の下、「官から民へ」の「聖域なき構造改革」を担った竹中平蔵のことを「彼はね、本質的には、経済学者じゃないんだよ」と、宇沢は語っていたという。