分厚くて、重くて、堅苦しい──そんな従来の辞典が持つ常識を大きく覆す新手が登場し、注目を浴びている。とりあげる分野はニッチで語彙も少なめだが、そこに記された言葉から広がるインスピレーションは果てしない。薄くてお手軽な1冊を、この秋、読んでみる?
《【かわいい】主に若い女子によって「これをかわいいって言う私ってかわいいでしょ」と周囲にアピールするために使われる言葉。対象が実際にかわいいかどうかは定かではない》
アンブローズ・ビアス『新編 悪魔の辞典』(岩波文庫)から着想を得たという『悪魔の辞典』。この辞典における【かわいい】の定義は、ブラックきわまりない。一方、『ロマンスの辞典』(ともに遊泳舎)の定義は《【かわいい】君のこと》ときた。なんともキザである。
今、斬新な切り口の“個性派辞典”が脚光を浴びている。『ことば選び実用辞典』(学研プラス)を発端とする「ことば選び辞典シリーズ」は、2019年9月9日時点で累計75万部を突破。このほか、書店にはずらりと多種多様な辞典が並んでいる。なぜ今、個性派辞典がうけているのか。
これまで計16種の辞典類を編集してきたカリスマ辞典編集者の神永曉さんは、「数年おきに日本語ブームが到来している」と話す。
確かに、1999年には大野晋さんの『日本語練習帳』(岩波新書)が、2001年には齋藤孝さんの『声に出して読みたい日本語』(草思社)がベストセラーとなった。
「辞典という形態そのものが今の時代に合っている」と語るのは、遊泳舎代表・中村徹さんだ。