東京国立近代美術館で開催中の「高畑勲展」。その音声ガイドナレーターを務めるのが、放送中の連続テレビ小説『なつぞら』(NHK)でアニメ演出家を演じる中川大志(21才)だ。この不思議な巡り合わせで感じた情熱、表現者としての学び、伝えたい想いを語る。
高畑勲さんの生涯を追った音声ガイドはまるで一本の映画のようだった──そう感慨深げに語る中川。音声ガイドを務めるのは今回が初めてだ。
「お客様が展示物を見ながら聴くものなので、視角から入る情報や感覚を邪魔しないように情感を込めすぎず、冷静に、丁寧に話すことを意識していた、のですが…」
音声ガイドを務めることが決まっても、収録前にあえて高畑さんの人生に触れることはしなかったという。
「まっさらな状態で挑みたかったんです。でもそうしたことで、音声ガイド収録が進むうちに“やっぱり高畑さんもこう思っていたんだ”とその喜びや悩みに共鳴することができた。それがすごくうれしくて、つい感情が高ぶってしまって。“もっと淡々と読んでください”と注意されてしまいました(笑い)」
展覧会をじっくり見るのも、実は開催期間中で初めてのこと。一枚一枚の原画に顔を近づけて見つめる姿は“同業者”のようだ。
「滑らかな動きを表現するには、1秒間に24コマ以上の絵を入れないといけないんです。だから、1本の作品に何千枚という絵が必要になる。それを、高畑さんはパソコンもない時代からやっていた。本当にすごいことです」
作り手の苦労や表現に懸ける想いがわかったからこそ、展覧会の楽しみ方も以前とは大きく変わったという。
「ぼくたちの目に届くものって完成された作品じゃないですか。でも、そこに至るまでにたくさんのプロセスがあることが、展示物を見ているとわかります。原画を見なければ出会えなかったキャラクターや風景が広がっているんです。この濃密な空間をたくさんのかたに堪能していただきたいですね」